第59話


とある一室の縁側で、私は空を見上げて眉間に皺を寄せている。
”とある一室”とは、用意された私とハチの部屋だ。かぐや達の気遣いもあり、部屋は和室となっている。現在は、ハチ以外にも久々知達五年生が集まって楽しそうにはしゃいでいる。今は武器になっている太公望殿に「太公望殿、」と声をかけると、太公望殿は「なんだ?」と聞き返した。



「帰りの時、遠呂智に会った、気がする」
《なんだと……?》
「確信は持てないんだけど、多分あの殺気は遠呂智のものだった」



そう告げると、太公望殿は武器の姿から人間の姿へとなった。顔を見ると、なにやら深刻そうな表情をしている。……あー、ちょっとヤバい感じ……? そりゃ、あの遠呂智に見つかったとなると、戦が早まる可能性も……。いや、きっと早まること間違い無しだ。



「遠呂智の手に渡る前に、人間にさせる妖水を全部零せば、確実に勝てると思うんだけど……、先手打っといた方が良い?」
「……ふむ、そうだな。遠呂智が何かしてくるかもしれない、やるしかないな」



太公望殿の言葉に「うん」と頷き、立ち上がる。私が立ち上がったのを見、太公望殿も立ち上がった。



「妖水がある場所は、龍がシンボルとなった噴水の中心部だ」
「場所は?」
「妖水の隠れ場所しか知らんから分からぬ。とりあえず探せ」



うわー、疲れそう。でも、まずは探すしかないか。太公望殿の言葉に、気分が少し落ちる。太公望殿曰く「遠呂智は妖水の場所を知らない」らしいから、あまり大声で話さないようにしなくては。だて、そうと決まれば即実行。と、その前に、一応ハチに言っておかねば。そう思い、ハチへと目を向けるが、ハチは楽しそうに久々知達と話している。……うーん、余計な心配はかけさせたくないな……。そうだ、手紙でも書いて置いておこう。「少し出かけてきます」っと。




 ***




龍のシンボルー……、噴水ー……。外に出てキョロキョロと見渡す。だが、噴水らしき物はどこにも見当たらない。



「龍と言ったら中国、だよね」
「そうだな、中国物が多い場所へ行ってみるか」
「うん」



中国物が多いのは、此処から右の方へ行った場所だ。今私達が居る場所は日本物が多い。中国物が多い方へ行くにつれ、全体的に赤い建物になってくる。その赤い建物の中に、銀色の噴水が見えてきた。あれが、龍のシンボルがある噴水だろうか。近寄って、よーく見る。確かに龍をかたどっている。しかし、この噴水は大きく、この場所からでは龍のシンボルへ手が届かない。



「水を止めるスイッチのような物が無いな……、仕方ない」



そう言った太公望殿は、片手を噴水へとかざした。すると、噴水の水が段々と出なくなってきた。なるほど、仙人の力ということか。



「今のうちに妖水を取って来い」
「あ、うん」



太公望殿に言われ、水の無くなった噴水へと足を運ぶ。龍のシンボルへ辿り着くと、龍のシンボルの下に箱のような物があった。箱を手に取り、箱の中から妖水らしきものが入った瓶を出す。それを持ち、噴水の外へと出た。



「それが妖水だな?」
「うん、多分」



私の言葉に、太公望殿が手を降ろす。それにより、噴水の水は再び噴き出した。私は妖水が入った瓶の蓋を開け、中身を地面にぶちまける。ビチャビチャと音を立て、瓶の中身は空になった。手元に残ったのは、空になった瓶のみ。

 
60/68
しおりを挟む
戻るTOP



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -