第58話


「――……卑弥呼、何処にも居ないんだけど」



卑弥呼を探しに出て早何時間か経った。多分。でも、卑弥呼は何処探しても見つからない。「あー…駄目だー……」と背伸びをして一息つく。



「もう日も暮れる。大人しく帰った方が良さそうだ」
「んー…、なんか納得いかない」
「ナタを味方にしただけでも大した事だ。ナタが味方になれば戦力も大幅に上がる」



そう言い、踵を引き返す太公望殿。私は渋々太公望殿の後ろを着いていく。



――ゾクッ
「ッ!!?」



突然に突き刺さる殺気が籠った視線。背筋が凍りそうな程、動きが止まってしまいそうな程、その殺気は強いもの。今の私の顔は、きっと青ざめているだろう。この殺気は誰のものだ……? これ程強い殺気を出せる者……、まさか遠呂智……?



「小雪、どうかしたか?」
「なんでも、ない……」



太公望殿はこの殺気に気づいていないようだ。ケロッとした表情で私の青ざめた顔に首を傾げている。もしかしたら、殺気を私だけに気づかせるようにしているのかもしれない。だとしたら、太公望殿が気づかないのも無理はない。やはり、遠呂智が出している殺気と考えた方が合う。急いで、帰ろ。再び歩みを進める私。歩くにつれ、殺気は遠ざかって行く。良かった、向こうは私を追ってくる気は無いようだ。




 ***




皆が居た場所に戻ると、そこにはかぐやと伏犠、ジョカ等の仙人達も加わっていた。どうやら話は終わり、仲間になってくれるようだ。「お帰りなさいませ」と言うかぐやの言葉に「たいだま」と返事をすると、太公望殿がかぐやの元へ行ってしまった。取り残された私。さて、どうしたものか。



「小雪、他に仲間になった奴はいないのか?」



いつの間にか隣にいるお兄ちゃんの言葉に、私は「うーん……」と呟く。



「一番仲間になってくれそうな卑弥呼を探したんだけど、どこにも見当たらなくて。それより、薬作ってるんじゃないの?」
「ああ、材料が足りなくて。今入手しに行ってもらってる」



ふーん。それにしても、あの時の殺気がどうにも忘れられない。あれ程の殺気を出すであろう遠呂智に、私達は勝てるだろうか。さすがに、一対一で戦え、と言われたら全力で逃げる。それは「死ね」と言っているようにしか思えない。



「あのぉ〜、小雪さん……?」



凛々しい眉毛を八の字にし、申し訳なさそうな顔で私に声をかけるハチ。その後ろには、ピンク色の花を飛ばしながら微笑ましそうに此方を見る久々知達五年生。「どうした?」と聞くと、ハチは言いづらそうに口を開いた。



「さっき部屋割りをしたんですけど、その……、小雪さん、俺と同じ部屋になっちゃいました……!!」



ハチがそう言った瞬間、私は無表情で固まった。ちょっと待って。何でそうなったの。



「私達がそうするように、かぐやさん達に頼んだんですぅ」
「うふふ、感謝してくださいねぇ」
「これで俺達のことを気にせずにぃ、」
「イチャイチャラブラブできますねぇ」
「ちょっと待って何故そうなった有り得ないでしょ何してくれてんの驚きすぎてお兄ちゃん固まってるじゃんよ本人の許可無しかハチも困ってんじゃねぇか」



ハチを除く五年生達の言葉に驚きすぎて長々とツッコんでしまった。しかもコイツ等、キャラ変わってんじゃねぇか。とんでもねぇ御節介ぶりっ子に変わってんじゃねぇか。もうどうにもならないし、一緒の部屋がハチならまだマシか。少し溜め息をつき、「まあ良いや」と呟く。



「っえ!? 良いんですか!!? 俺も立派な男なんですけど!!」
「襲うの……?」
「っ、お、襲いませんけど……」
「なら良いじゃん」



ニカッ、と笑う私。しかし、ハチは顔を赤くしながら目線を泳がせている。それを見た久々知達は、更にほんわかした雰囲気を醸し出した。



(同室なんてお兄ちゃん許さないからなァァァアアア!!!! by.柊)
(うるせぇ。 by.小雪)

 
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