第55話


「ふむ、意外と早く戻ってきたな。もう少し遊ぼうと思ったのだが、さすがに竹谷が可哀想だと思ったから程々にしてやった」
「……太公望殿めがけて石をスパーキンg――」
「――うわあああ!!! 駄目です!!! 駄目ですからぁぁあ!!!」



太公望殿の言葉に、庭にある石を拾って太公望殿に思いっきり投げつけようとした。だが、ハチに止められてしまった。チッ……、せっかく太公望殿の綺麗な顔を崩壊させてやろうと思ったのに。



「おいおい、保健室で暴れんなよー」
「暴れる時は別の場所でお願いしますね」
「伊作先輩、別の場所でも駄目です」



善法寺は天然ボケらしい。乱太郎がすかさずツッコミを入れる。っていうか、私達はこんなにのんびりしていて良いのだろうか。普通は遠呂智戦に向けて修行とか鍛練をすべきなのでは……。まさか、太公望ってばかぐやが居るからって私達が死んでも良いと思ってる……!!? そりゃ、かぐやに過去に戻る能力があるからって…――、



「――……」



あれ? 考えてみれば、一番簡単に長い戦いを終わらせる方法があるではないか。なんだか、自分が凄く馬鹿らしく感じる。といっても、実際に馬鹿なのだから仕方ないけれど。でも、どうして今まで気づかなかったんだろう。私は小走りで太公望殿の前へと行き、胡坐で座る。



「どうした?」
「私も馬鹿だけど、太公望殿も馬鹿だよね」
「なんだと?」



眉間に皺を寄せる太公望殿。妲己が少し驚いた顔で「小雪ちゃんが太公望さんを見下してる……」と呟いている。私は、ニヤリ、と笑う。私は手っ取り早く遠呂智を倒す方法を見つけたのだよ。そうドヤ顔で言う私に、太公望殿はイラッとしたのか眉間に皺を寄せる。けれど、すぐに「言ってみろ」と言った。



「かぐやには、記憶を辿って過去に戻る能力を持っている。それを使って過去に戻り、遠呂智がこの世界に来る前に倒すの! そうすれば、三國世界にも妖蛇は現れない!! ドヤァ!!」



私の言葉に、太公望殿は顎に手をあてて「成程、かぐやの力を使うのか」と呟く。太公望殿達が人間になる前の天界に行けば、伏犠さんや女カさん達が味方になってくれるはずだ。太公望殿は悔しそうに「私としたことが、目の前に事ばかり考えていて過去に戻るという考えには至らなかった」と言うと、立ち上がった。太公望殿を見上げ、次の言葉を待つ。



「――…準備ができ次第、過去へと戻る」



それはつまり、これから遠呂智と戦うということだ。心臓がバクバクとうるさい。私達は、本当に勝てることができるだろうか。ええい、ビビってったって仕方ない。勝てるからこそ、太公望殿達は私達を選んだんだ。



「立花仙蔵、このことを学園長に説明し、至急に朝司と緑子、教師達を集めるように言ってくれ」
「戦に参加する生徒は此処に居る上級生だけ、ということですね?」
「ああ」
「分かりました」



太公望殿の言葉に、立花がシュバッと消える。おお、さすが忍たま六年生。前に妲己に聞いた話によると、遠呂智軍の主な戦力は卑弥呼、平清盛、百々目鬼、牛鬼ということらしい。場合によっては素戔嗚やナタは私達の味方になってくれるかもしれない。



「そういえば、三國で生き残ってる人達ってどうするんだ?」
「あー…、郭嘉曰く”私達はいずれ、君達の元に現れる”らしいから、放っておいても大丈夫じゃね?」
「何それ適当」
「だって、アイツ詳しく教えてくれなかったし……」



お兄ちゃんの言葉に、眉間に皺を寄せてそっぽを向く私。そういえば、郭嘉のこと一回も殴ってなかったな。次会ったとき殴ろう。忘れて無ければ。「そういえば、郭嘉ってどんな人なんですか?」と聞く久々知の言葉に、私は「女たらし」と一言で返事をする。その言葉を聞き、郭嘉の性格を知らない全員が「え」と固まった。でも、一言で言えばってだけで、曹操に信頼されているだけあって戦では凄く役に立つ存在だ。



「あ、ああああのっ!! まさか、口説かれたりとかされました……?」



ハチの疑問に、私は「あー…」と呟く。此処でイエスと答えたら、絶対ハチは傷つくだろうなあ。



「口説かれてないよ」
「……く、口説かれたんだ……」
「くっ、口説かれてないよ!! 大丈夫、口説かれてない!!」
「少し間があったじゃないですか!!」
「〜〜っ…く、口説かれました……」
「や、やっぱり……!!」
「よし、郭嘉ぶっ殺そう」
「柊さん、俺も加勢します」



お兄ちゃんとハチが顔を見合わせて「フッフッフ」と黒い笑みを見せている。あー、もう知らない。郭嘉、お前の命の灯ももうすぐ消えるだろう。…………あ、なんか今のかっこよかった。



「――太公望さん、お連れしました」
「ああ、ご苦労だったな」



立花が現れた。後ろにはかぐややお父さん達と先生方。私は静かに立ち上がり、太公望殿を見る。太公望殿の「皆、かぐやの元へ集まってくれ」という言葉に、私達医務室に居たメンバーはかぐやの元へ向かう。私達家族、上級生、先生方が揃うと結構な人数になる。頼もしい人達が仲間で良かった。



「太公望様、準備は宜しいでしょうか?」
「ああ」



そう言うと、太公望殿は目を瞑り、少し頭をかぐやへと向ける。かぐやは榊を掲げ、太公望殿の頭上で榊を軽く振った。ぱあっ、と光を放つ榊。眩い光に、私は目を瞑る。――…段々と、光の眩さが消えていくのを感じた。

 
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