第54話


「ほう……。では、バレーボールを破裂させてしまったから、食満留三郎が所属する用具委員の手伝いをしないといけない、ということか」
「小雪ちゃんも結構お馬鹿さんよねー」
「一週間は私と共に釣りをしに行く約束ではなかったか? 貴公は馬鹿か」



現在、保健室で太公望殿に説教をくらっている。妲己には馬鹿にされ、お兄ちゃんには「どうでも良いけど、此処で説教はやめてくんね?」と言われてしまったけど。
原因は、今朝のバレー対決。バレーボールを破裂してしまった私は、一週間食満の手伝いをすることになってしまった。しかし、それより先に、太公望殿と一週間釣りをするという約束をしていたのだ。何故保健室に居るのか。そんなことは知らない。ちなみに、保健室には保健委員会と六年生、四年生達がいる。



「全く、貴公の馬鹿さには呆れるな。遠呂智に勝ったあかつきには、貴公の大好きな大好きな王異に会わせてやろうと思ったのだがな……?」
「っえ!!? 王異さん!!? ちょ、待って!! なんでソレを今言うの知らなかった!!!」
「サプライズというやつだ。だが、残念だな。貴公は私より、いや、王異より食満留三郎を取るのか」



「……け、食満ぁぁあ!!」と食満に許可を取ろうとするけれど、「駄目です」と一刀両断されてしまった。ッスよねぇぇえ!!! 俯き、顎に手を当てて考える。王異さんには会いたい。しかし、食満にも申し訳ないし……。



「間を取って、僕が小雪と一緒に出かける」
「それだ!!」
「”それだ”じゃありませんよ。綾部が出てくる意味が分かりません駄目です」



「ブーブー」とブーイングする私と綾ちゃんに、食満は溜息をつく。その時、スパァンッ、と太公望殿にハリセンで叩かれる。「いっ!!」と思わず声に出してしまい、キッ、と太公望殿を睨む。「そんなに王異が好きか?」と聞かれ「好きだよ!!」と即答する。



「確かに王異は男前だからな」
「そうそう。凛々しいし、顔綺麗だし、強いし! あんな人が目の前に居たら惚れる!」



即答&自信満々に答えてやった。すると、太公望殿は「ほう」と妖しい笑みを浮かべ、保健室の障子へと目を向ける。誰かが「げ」と声に出した。――…目線の先には、ハチが居た。その顔は青ざめていて、目に涙を溜めている。ハチの後ろに居る久々知、尾浜、鉢屋、不破の四人は心配そうにハチを見ている。……しまった、嵌められた……。



「あ、あの、俺、その……勝手に聞いてすんませんでした……!!」
「っあ!! ちょ、待っ……!!」



ハチが、ダッ、と逃げてしまった。手を伸ばしても届かない距離。だが、手を伸ばさずにはいられなかった。ハチが去ってしまい、私は再び太公望殿を睨む。



「謀ったな!!?」
「人聞きの悪いことを言うな」
「そうですよ!! 人のせいにするのは良くないです!!」
「小雪さん、浮気性なんですね」



私に突き刺さる鋭い視線。お兄ちゃんは関わらないように薬を作っている。太公望殿はニヤニヤしてる。チクショウ。皆は勘違いしてるだけなんだ。王異さんに惚れるっていうのは、女から見ても魅力的だから。とりあえず、誤解を解かなければ。



「王異さんは女性だよ!!」
「「「「「え」」」」」



私の言葉に、全員が固まる。確かに、アレだけの会話じゃ「王異さんは男性」と思ってしまうかもしれない。だが、間違ってはいけない。「王異さんは女性」だ。……あ、こうしてる場合じゃないや。早くハチを追いかけないと。私は石のように固まっている皆をスルーし、ハチを追いかける為走った。




 ***




ハチが走って行った方向を走る。しばらく走っていると、見知った後ろ姿を見つけた。



「――ハチ!!」



猫背でトボトボ歩いているハチの名を呼ぶ。呼ばれたハチはビクッと反応し、ゆっくりを私の顔を見た。その顔は、いつもの男前な顔ではなく、自信なさげな顔をしていた。うわ、こんな顔させちゃってたのか。



「ごめん、ハチ。アレは違うの」
「良いんです。小雪さんが幸せなら、それで……」



ちょ、何で少女漫画みたいになってるの。って言ってる場合じゃない……!!



「ハチ、王異さんは女性なの。私が言った”好き”は”憧れ”の意味」
「……え? 男の人じゃないんですか……?」
「うん、男じゃない。私が一番好きなのは、ハチだよ」
「う、嘘……」
「嘘じゃない」



私の言葉に、ハチは段々と笑顔になっていく。良かった、誤解が解かれた。



「――…やっぱり俺、小雪さんが居ないと駄目みたいです」



そう言ったハチの笑顔が、とても眩しく見えた。あ、コレ絶対顔赤い。

 
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