第53話


ライブが終わり、いつも通りの日常が戻ってきた。「んーっ」と背伸びをすると、なんだかスッキリする。庭の方から、チュンチュン、と雀の声が聞こえる。うん、なんて爽やかな朝だろうか。



「小雪、バレーで対決しよう!!」
「はい……?」



太公望殿はいまだに寝ている。そして、妲己もいまだに寝ている。部屋の中には私しかいない……、はず。なのに、何故か後ろから声が聞こえた。



「……なんで七松が私の部屋に?」
「ん? 細かい事は気にするな!!」
「いや気にするよ!! 私が着がえ途中だったらどうするのさ!!」
「襲う!!」
「自信満々に言うな馬鹿!!!」



怒鳴るが、七松はいまだに笑っている。はー…、調子が狂う。溜息をついていると、七松に手を握られた。「は?」と七松を見ると、ニッ、と笑みを見せられる。そして…――、



「いけいけどんどーん!!!」
「は!!?」



そのまま何処かへ誘拐されてしまった。




 ***




「あ、小雪さん!! やっと来ましたね!!」
「さあ! 準備をお願いします!!」
「えーっと……?」



さっきからチンプンカンプンなのですが。目の前には白線とネットで作られたバレーのコート。片方の面には四年メンバー。もう片方の面には立花以外の六年メンバー。立花は審判をやるようだ。「小雪は僕達と同じチーム」と、綾ちゃんに引っ張られて、四年メンバーがいるコート面へと入る。七松が言っていた”対決”とはこの事か。ならば仕方無い。受けて立とう。私は、ニヤッ、と笑みを浮かべ、六年生達を見る。



「ふふふ、ド阿呆が!! 吠え面かきやがれ!!」
「よし!! そうでなくちゃ面白くない!!」



私の言葉に、うきうきした七松が満面の笑みで言う。北条氏康殿、台詞お借りしました。ボールを持った立花が、まずは先に私達のコートへとボールを投げる。ボールが落ちる先には、三木。



「レシーブ!!」
「トース」
「アタァーック!!!」



三木、綾ちゃん、滝の見事なプレイ。ボールは勢いづいたまま、相手のコートへと入る。……だが、流石は六年生。「させねぇぜ!!」と食満がボールを拾う。ボールは食満の手でバウンドし、中在家のほうへ向かって行く。



「トス」
「来た!!いけどんアタァーック!!!!!」
ッドォォォオン!!!!



七松の打ったボールが、私達のコートど真ん中へと突っ込んで来た。それも、物凄い音をたてて。恐る恐るボールが落ちたであろう場所を見ると…――ボールが地面にめり込んでいた。え……、ええええええ。なんなんだよ、これ。ドラゴン○ールじゃないんだから変なパワー入れんなよ。



「滝、サーブお願い。綾ちゃんはトスで、力一杯高く上げて」
「はい、分かりました」
「作戦だね? 分かった」



そう指示をし、再び構える。滝がサーブをする。綾ちゃんは、そのサーブを拾い、トスをする。高く、高く上げられたトス。「え? アレだと、ボール打てないんじゃ……」「だ、だよな……」と唖然とする六年生達。私はそんな表情の彼等を見て、ニヤリと笑う。



「タカ丸!! 頭借りるよ!!」
「へっ?」
「痛くても我慢!!」



目の前に居るタカ丸にそう言う。タカ丸が頭に「?」を浮かべている。だが、そんなの関係無し。私はタカ丸に向かって走る。そこで軽くジャンプをし、タカ丸の頭を踏み台にして更に高くジャンプをする。きっと、中在家四人分くらい高く飛んでる。例えがイマイチだな。タカ丸が「ぎゃっ!?」と悲鳴をあげているが、無視だ。ごめんね、タカ丸。マジごめん。



「おーっと!!? 小雪選手、物凄く高く飛びました!!」
「おお!! 凄い!!!」
「う、嘘だろ……!!?」
「――ッうおらァァ!!!!」

ッドッゴォォォオオン!!!!パァンッ!!

「「「「あ」」」」



思いっきり打った。そりゃ力一杯込めて。ボールは相手のコートへと勢いよく落ちた。だが、次の瞬間…――ボールが破裂してしまった。嘘だろ、オイ。食満の顔が青ざめているんだけど。どうしよ、逃げたい。……えーっと、あー……。地面の上に着地した私は、何を言えば良いのか分からずに居た。用具委員長の食満は、俯いて震えている。しかも、拳を固く握りしめて。あ、ヤバい。



「小雪さん?」
「ハイ」
「一週間、委員会手伝ってもらいますからね?」
「…………ハイ」



この時の私は、年上の威厳も何もあったもんじゃない、と後に滝に言われた。

 
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