第47話


「テメェ何ついてきてんだよ!!」
「貴様こそ何故ここにいる!!?」
「俺は作兵衛がいるからだ!!」
「ちょ、先輩っ……」
「先輩方、うるさいです」
「小雪さんが魘されたらどうするんですか?」
「そうだぞ、二人とも!! 全く、迷惑な奴等だ!!」
「「普段うるせぇ奴に言われたかねぇよ!!!!」」



思わずため息をついてしまう程、ぐだぐだな感じになってしまっている。
ちなみに、俺達が居る場所は保健室。小雪さんを寝かせる為、一番近い保健室へと来たのだ。俺の目の前には、ぐっすり寝ている小雪さん。顔色は悪くないようで、安心する。
いまだに喧嘩をしている食満先輩と潮江先輩。その喧嘩に巻き込まれているのが、作兵衛。わざと突っかかりに行っているのが、綾部と三木、七松先輩だ。他にこの場に居るのは俺、太公望さん、かぐやさん、滝夜叉丸、タカ丸さん、左門、団蔵。そして、普段医務室に居る柊さん、酒呑童子さん、善法寺先輩だ。



「んっ……、っるさい……」



ふと、目の前で寝ているはずの小雪さんが不機嫌そうに呟いた。目線を食満先輩達から小雪さんへ移す。そこには、上半身を起こして目を擦っている小雪さんが居た。



「起きたんですね。大丈夫ですか?」
「ん」



寝起きの為、声が出ないのか、頷いてそう言う小雪さん。その姿はまるで、幼い頃の小雪さんを見ているかのように見えた。それだけで、胸がキュンとする。余程騒がしかったのか、小雪さんが喧嘩している食満先輩達に視線を向け、「なにアレ」と眉間に皺を寄せた。俺は思わず苦笑して答える。



「気にしないでください」
「そう?」
「はい」



寝ぼけた小雪さんはコテン、と首を傾げる。ああ、駄目だ。やっぱり小雪さんが妖精に見える。相当重症だな、知ってる。ふと、小雪さんがボーッとしながら、俺の隣にいるかぐやさんの元へと寄る。そして、正座をしているかぐやさんの膝を枕代わりに、自分の頭を乗せて寝た。



「きゃっ!? 小雪様……!!?」



いきなりのことで驚くかぐやさん。だが、小雪さんは「ん」と言うだけ。羨ましい。良いな、かぐやさん。そんなことを思っていたら、俺の手に何かが乗った。それが何か、俺は瞬時に理解する。小雪さんの手が、俺の片手を包み込んでいるのだ。といっても、小雪さんの手の方が小さいから完全に包み込めてはいないけれど。



「えっと、小雪さん……?」
「極楽」



もはや答えになっていない。しかし、そんな姿ですらキュンとしてしまう。



「小雪さん、起きてくださいよぉ〜」
「夢の中で何があったんです?」
「……あ、そっか」



タカ丸さんと滝夜叉丸の言葉に、小雪さんが何かを思い出したように上半身を起こす。それにより、小雪さんの手が離れてしまった。少し寂しいが、仕方ない。姿勢を正し、「太公望殿、酒呑童子、そしてかぐや、朗報です」とそう言う小雪さん。その姿に、太公望さんが「改まってどうした?」と聞く。



「実は、まだ力が残っている仙人が一人います」
「なんだと!?」
「その人物とは?」
「――…素戔嗚」



小雪さんの言葉に、太公望さん、酒呑童子さん、かぐやさん、柊さんの四人が目を丸くした。そんなに驚く人物なのだろうか。



「遠呂智が妖水で仙人を人間にした時には既に、素戔嗚はこの世界に居たんだ。それにより、人間になることを免れた」
「しかし、何故素戔嗚様はこの世界にいらっしゃったのでしょう?」
「遠呂智が狙っている巻物を捨てる為。素戔嗚は、遠呂智の企みにいち早く気づいたらしい。まあ、遠呂智が狙っている巻物は燃やしたから存在しないけど」



小雪さんの言葉に、柊さんが「は? 巻物はどこにあるか分からないんじゃなかったか?」と疑問を口に出す。それに対し、かぐやさんが「私と小雪様で見つけたのです」と説明し、更に「巻物を燃やしたのは、内容が危険なものだった為です」と付け加える。どれほど危険なのかは知らないが、”遠呂智”という黒幕が狙う巻物だ。燃やして消してしまえば、此方が有利になるだろう。



「素戔嗚が味方に付けば、それだけで戦力が大幅に上がるな」
「ああ、そうだな。で、素戔嗚は今どこに居る?」
「…………あ、場所は聞いてないや」



ケロッとした表情で言う小雪さん。瞬時に、太公望さんの表情が鬼と化する。



――ッスパァァアンッ!!
「ったあ!!?」



どこからか出したハリセンで、小雪さんの頭を思いっきり叩く太公望さん。物凄い音が出た為、相当痛いであろう。小雪さんは「うおおおお」と呻き声を上げて、頭を抑えている。今の凄まじいハリセンの音で、食満先輩達の喧嘩が止んだ。



「何故そういう大事なことを聞いてこないのだ。お前は出来るようで抜けているな」
「ぬぐぐ……、それ褒めてんの貶してんの?」
「貶している」



「はあ」と溜め息をつく太公望さん。小雪さんは痛みのせいで、太公望さんに構っている余裕はなさそうだ。



「でもよ、素戔嗚のことだから、いざという時には姿を現すんじゃねぇか?」
「……それもそうだな。そうでなければ、素戔嗚も郭嘉に手は貸さないだろう」



太公望さんの言葉に、小雪さんが「私を叩いた意味はどこに」と呟いた。その顔はとても不満そうだ。太公望さんが「小雪、よくやった」と小雪さんの頭を撫でる。しかし、小雪さんは、パシンッ、と叩いてそれを拒んだ。その行動に、太公望さんが「高貴な私が頭を撫でてやろうというのに」と呟いた。仲間になれば戦力が大幅に上がると言われた素戔嗚という人物、どんな仙人か、少し気になる。

 
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