第45話


「お前等どこに行ってたんだ!!」



そろそろ先生方に怪しまれる可能性がある為、私達はライブの練習を中断して地下から出た。地下から出ると、そこは裏山付近で驚いた。忍術学園に戻ると、土井先生が怒った表情で門の前に立っていた。



「近いうちに戦が起きることを想定して、全生徒で体力作りの為マラソンを行っていた」



太公望殿がそれらしい嘘を言う。太公望殿の言葉に、全員が「うんうん」と頷く。それにより、土井先生が溜息をつき「せめて一言言ってからにしてくれ。心配するだろう」と言う。



「それから、かぐやもだ。まだ安静にしてなきゃ悪化するかもしれないだろう」
「いいえ、私も皆様と共に頑張りたいのです。一刻も早く、皆様が救われるように」



かぐやの言葉に、土井先生は言葉に詰まる。それは、土井先生自体もこの世界や三國世界に迫る危機を承知しているからだろう。土井先生は諦めたように「無理はしないようにな」と言い、かぐやはやんわりと頭を下げて「はい、有難う御座います」と言う。おいおい、なんだその良い雰囲気。ふと、太公望殿が二人の間に割って入った。良いぞ、もっとやれ。



「小雪さん、目が死んでます」
「おっといけねぇ」



ハチの言葉に、慌てて目をゴシゴシと擦る。死んでねぇ。俺の目はまだ死んでねぇんだ。



「あの、小雪さん。着物、少し焦げてますけど……」
「え……?」



団蔵に指さされた着物の裾を見る。確かに、火がついた後の焦げめのようなものが出来ていた。え、え、待って、何コレ。いつの間にできたのコレ。確かに、火で巻物を燃やそうと考えてはいたけれど……。だが、実際にまだ巻物を燃やした訳ではない。ましてや、火なんて使っていない。



「まるで、小雪さんが不思議な夢を見たときのようですね」
「ああ、確かに。でも、あの時は寝ている最中に焦げてて……」



冷静に考える立花の言葉に返事をする。けれど、その時だった。いきなり睡魔が襲ってきたのだ。「っやば……」と声を漏らすものの、視界がぼやける。体がフラフラする。落ち着こうと思い、隣にいるハチを支えにして体を預ける。ハチは「小雪さん!!?」と驚きながらも私が倒れないように支えてくれる。ああ、やっぱりハチは優しい。



「行って、きま、す……」



夢の国へ。
遠くでハチや潮江達の声が聞こえる。でも駄目。限界。もし、また郭嘉が出てくるようなら、アイツ殴ってやる。




 ***




「小雪さん!? 小雪さん!!」
「大丈夫ですか!?」



「行ってきます」
その言葉と共に、小雪さんの体が崩れ落ちた。俺は慌てて小雪さんの体を支える。顔を覗き込んでみると、まるで寝たかのように目を閉じていた。



「何事だ? ……っ!? 小雪!!?」



異様な騒ぎに、土井先生達や綾部達も駆け寄ってくる。皆が焦った表情を見せる。だが、太公望さんと酒呑童子さんは至って普通の顔をしていた。



「太公望さん、コレってあの時の……?」
「ああ、そうだろうな。問題無い、今は寝ているだけだ」



綾部と太公望さんが会話するけれど、話がついていけない。俺が知らない間に、一体何があったのだろう。とりあえず、小雪さんを横抱きする。完全に力が入っていない体。小雪さんの首がガクン、と俺の胸辺りにあたる。こうして見ると小さく、持ち上げた体は軽い。こんな体で、俺達を守ってくれたのか。



「あ……? ちょ、待っ、有り得ねぇ……」



寝言だろうか。眉間に皺を寄せた小雪さんが、そう呟いた。どんな夢を見ているのだろう。とりあえず、小雪さんに何事もなくて良かった。思わず、頬が緩む。そんな俺の表情を見ていたのか、「ニヤニヤするな、気持ち悪い」と太公望さんに言われてしまう。慌てて否定しようとするけれど、本当のことである為、口がぱくぱくと動く。



「ムッツリってやつ?」
「ちょ、勘右衛門!!」
「本当のことですから否定はできませんよね」
「孫兵ェェェエエエ!!!!」



その時、小雪さんが「うー…ん……」と唸りながら俺の胸辺りに頭を擦りつけた。それだけで俺は更に顔を真っ赤、それに加えて一時停止してしまう。これが惚れた弱みというやつだろうか。貴女に惚れて、俺は貴女より強くなろうと思った。貴女に惚れて、守りたいものが増えた。貴女に惚れて…――、



「おい竹谷、お前後で用具倉庫裏に来い」
「え、ちょ、」
「俺の妹に手を出した奴は絶対殴る、そう決めたんだ」
「あ、あの、」
「大丈夫大丈夫。俺の力なんて小平太よりちょっと強いくらいだから
「あ、俺これ死ぬわ」



より一層、時間を大切にしたいと思った。

 
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