第44話


六年生の輪へ行くと、お兄ちゃんを含めた全員が、お兄ちゃんの携帯を見て眉間に皺を寄せていた。携帯を見ると、マジLOVE1000%のダンスの動画がうつっている。私が来たことに気づいたお兄ちゃんが「ダンスがさ、全部よく分かんねぇんだけど」と言う。えー、全部……。どう教えようか困っていると、先程まで動画を見ていた酒呑童子が私に顔を向けて「私は全て覚えた」とそう言った。その言葉に、隣にいるお兄ちゃんが「マジか!!」と目を輝かせる。



「じゃあ酒呑童子、一緒に踊ってみようか。二人だけじゃ辛いから色々省くけど」
「ああ」



お兄ちゃんと六年生の前で、人間姿の酒呑童子と肩を並べる。その際に、マイクの代わりに中在家からしゃもじを貰った。何故持っているのかは謎だけれど、動画ではマイクを持って歌っている為好都合だ。「じゃあ音楽流すぞ、準備は良いか?」と言うお兄ちゃんの言葉に、酒呑童子と同時に「おう」と頷く。お兄ちゃんと六年生の目線が突き刺さる中、私と酒呑童子は踊り始めた。




 ***




「果てない空がそこにあるって♪ 今確かな声が聞こえる♪」
「ハチ、もうちょっと速めね」
「速め? 分かった」



太公望さん曰く、俺達忍たまは「物覚えが早い」らしい。小雪さんが柊さんと六年生達の元へ行ってしまって、あまり時間は経っていない。それなのに、「サビまで順調にいくとは思わなかった」らしいのだ。



「そういえば、ライブっていつやるんですか?」
「ひと月後だ。貴公等の両親には、明日文を出す」
「御家族の方々、さぞお喜びになるでしょうね」
「ああ、無論だ」
「ま、ひと月後なら余裕だな」



三郎め、余裕の笑みを浮かべやがって。俺は音程やらなんやらが不安だというのに、チクショウ。ふと、周りがなにやら先程より騒がしいのに気付いた。特にくのいち達が「かっこいい!!」「素敵!!」などと言っている。ふと、「竹谷先輩」と名前を呼ばれた。この声は綾部だな。後ろを振り向くと、案の定綾部が居た。綾部は無表情のまま「見なくて良いんですか?」と聞いてきた。見る……、何を? 首を傾げると、「あれ」とどこかを指さす綾部。俺も兵助達も、指さされた方へと目を向ける。



「――…え……」



皆が作業を止めて注目してる場所。そこには、――慣れたように歌と合わせて踊っている小雪さんと酒呑童子さんの姿があった。満面の笑みの小雪さんに、薄らと微笑んでいる酒呑童子さん。見惚れてしまう程に、二人は輝いて見える。小雪さんを見ると、胸がきゅうっとなるのを感じた。



「凄い……」
「六年生、あれ踊るのかー」
「六年生が踊ったら更に注目を浴びるな」
「小雪さんかっこいいな、はーちー?」
「お、お前もう黙ってろよっ!!」



小雪さんはズルイ。俺ばっかり魅せられているみたいで、なんだかもやもやする。俺だって、小雪さんを照れさせたりしたいのに。



「酒呑童子さん、笑うと更にかっこいい!!」
「そうよね! 謎めいている感じも素敵だし!」
「小雪さんも、女性なのに男前よねぇ!」
「あっ、男装してもらえばいいのよ!」



くのいち達の会話が耳に入ってくる。お前等な、小雪さんは俺のなんだぞ。小雪さんに男装させたいなら、彼氏である俺に許可を取ってからにしろ。そう思っているうちにダンスが終わったようで、小雪さんはやりきった顔で、六年生達に「できそう?」と聞く。すかさず、七松先輩が目を輝かせながら「やる!!」と返事をした。



「小雪さんも酒呑童子さんも、凄くかっこよかったです!!」
「俺の妹と俺のパートナーは、何やらせてもイケメンだな」



仲良さげに話す六年生達。小雪さんは、「じゃ、ダンスは酒呑童子に教えてもらってね」と言って、六年生達に背を向ける。六年生達の「有難う御座いました」という言葉に「おう」と笑顔で答えた。そして、俺達の方へと走ってくる。しかし、俺達と目が合うと、驚いて少し固まってしまった。それでもぎこちなく走ってくるけど。若干青ざめながら「い、今のダンス見てた?」と聞く小雪さん。小雪さんの言葉に、俺達は笑顔になる。



「「「「「はい、勿論」」」」」
「っ……」



俺達の良い笑顔で答えた返事に、小雪さんは顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。小声で「踊らなきゃ良かった……」と呟いている。その姿がとてつもなく愛らしい。

 
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