第41話


太公望殿が何処かへ行ってしまった。と言っても、勝手に、というわけではない。「用事がある」と言って、私の返事を聞かずに姿を消したのだ。妲己は三蔵様に言われて食堂の手伝いをしている。毒を盛らないか心配だ。



「大丈夫?」
「はい、すっかり元気になりました」



かぐやが寝泊まりしている食堂のおばちゃんとお母さんの部屋に来た。ニッコリと微笑む姿は、可憐で可愛らしい。私もこういう感じの子に生まれたかった。もう遅いけど。そう思っていると、「始めてお会いした時、取り乱してしまって申し訳ございませんでした」と謝られた。慌てて「気にしないで」と言い、話題を逸らそうと口を開ける。



「で、聞きたいことあるんだけど良い?」
「はい、なんでございましょう?」
「遠呂智が狙っている巻物を、学園長が持ってるらしい。学園長は心当たり無いみたいだけど……、どういう巻物か知ってる?」



私の質問に、かぐやが顔を強張らせた。そして、言いづらそうに目線を斜め下に下げる。



「遠呂智様が狙われている巻物……、それは、異世界の者を我が物にできる巻物なのです」



かぐやの言葉に、私は固まる。その巻物はとてつもなく重要な巻物じゃないか。いや、そもそも遠呂智が狙っている時点で重要な巻物だ。”異世界の物を我が物にできる”ってことは操るということなのだろうか。疑問をかぐやに聞くと、本人の意思関係なく心の底から服従させられる、ということらしい。まるで頭を何かで殴られたような衝撃を受けた。そんなに大切で重要でヤバい巻物が遠呂智の手に渡ったら……。……考えただけでも恐ろしい。



「とりあえず、学園長にこの事を話そう」
「はい」



 ***




「――…と、いうことにございます」
「なるほど……」



かぐやの話を聞いた学園長。だが、思い当たる節が無いようだ。その巻物は朱色をした古びた巻物だとかぐやは言う。かぐやの言葉を聞き、学園長が「朱色……?」と反応を示した。「何か心当たりでもあるのですか?」と聞くと、「ああ」と頷いた。



「一年程前、空から巻物が落ちてきたことがあっての。その巻物の色が確か、朱色だったような……」
「空から落ちてきた……?」
「きっと、その巻物でしょう。学園長様、その巻物は今どこに?」
「うーむ……、探してみんと分からんのう……」



顎に手を当てて立ち上がる学園長。そして、低い戸棚へと手を掛ける。その戸棚を開けると、そこにはたくさんの巻物が置いてあった。巻物の数の多さに、私もかぐやも驚く。かぐやは驚きのあまり「まあ、なんて数の巻物でしょう」と口に出す。学園長は全ての巻物を順に畳の上に並べた。様々な巻物の数。その中から唯一、朱色の巻物を見つける私。



「これ、そう?」



朱色の巻物を手に取り、かぐやへ渡す。かぐやは巻物を受け取ると、巻物の紐を解いて巻物を広げる。内容を読み、「この巻物のようです」と真剣な表情で頷くかぐや。これが、一歩間違えれば危険になる巻物……。



「学園長先生、」
「なんじゃ?」
「この巻物、私達のものにしてしまっても宜しいでしょうか?」
「んー…、そうじゃの。儂は使わんから、二人の好きにしなさい」
「有難う御座います」



学園長に軽く頭を下げる。学園長は「うむ」と返事をする。これから朱色の巻物をどうするべきか考えなくては。「では、失礼させていただきます」と頭を下げて言うと、「え、巻物片づけるの手伝ってくれないの?」と学園長に言われた。私は頭を上げて学園長を見る。



「申し訳ありませんが、急ぎの用がありますので」
「え、でも、」
「急 ぎ の 用 が あ り ま す の で」
「…………ぐすん」
「では、失礼させて頂きます」
「え、えっと、失礼いたしました……!」



さて、この巻物をどうしようか。

 
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