第40話


「らっしゃいませー!! 新鮮な野菜、いかがっすかー!!」
「今ならお買い得ですよー!!」



立花の化粧とタカ丸の髪結い技術があれば敵無しだ。ブスである私が、化粧と髪型を変えることによって、こんなに可愛らしくなったのだから。化粧と髪型の力は偉大だ。立花とタカ丸に感謝。ちなみに私ときり丸は、姉弟設定だ。



「お姉ちゃん、これが全部売れ切ったら俺とどっか行かない?」
「駄目ッスよ、お兄さん。姉ちゃんには心に決めた人がいるんスから」
「きっ、きり丸……!!」
「なーんだ、恋人いんのか」



きり丸の言葉に、つまらなさそうに言って帰っていくお兄さん。ふう、良かった。きり丸のおかげで何とか凌げた。「ありがとう」ときり丸に礼を言うと、きり丸はニカッと笑って「本当のことッスからね!!」と言った。きり丸がそんなこと言うから、ハチに会いたくなってきてしまった。



「……きり丸って将来モテそうだよね。美形になりそう」
「まあ、美形に越したことはないッスよね。顔を利用して金儲けすれば良いし」
「浮気癖がつかないようにね。女は怖い生き物だから」
「にひひっ、肝に命じまーす!!」



元気に返事をして、再び商売を始めるきり丸。ああ、ほんとこの子の将来が心配だわ。嫉妬まみれの女には気をつけなさいよ、くれぐれも。小さく溜め息をつき、再び「いらっしゃいませー!! 野菜はいかがですかー?」と商売を再開する。




 ***




「ただいまー!!」
「ただいま」
「あ、おかえりなさい!! 入門票にサインお願いしまーす!!」



きり丸に続き、私も入門票にサインを書く。「たくさん売れました?」とニコニコしながら聞いてくる小松田に、「うん、バッチリ」とピースサインを作ってニカッと笑みを浮かべる。それに続き、「小雪さんのおかげで金がたくさん入りましたよ!!」ときり丸が言う。



「小雪さん、今日は本当にありがとうございました!!」
「いえいえ、お役に立てて良かったよ」
「また手伝ってもらっても良いッスか?」
「良いよ。その時はまたおいで」
「やっほい!! さすが!!」



きり丸の目が銭になる。ちょっと、涎垂れてるよ。苦笑し「さて、着がえてこようかな」と一言言い、自室へ戻ろうとした時だった。少し離れた向こうのほうで、ハチが私を見て固まっているのが見えた。とりあえず、タッタッタッ、とハチに駆け寄る。ハチは、ぶわっ、と顔を赤くする。私は思わずぎょっとする。一体どうしたというのだ。



「そ、その格好、どうしたんですか?」
「ああ、きり丸のバイトの手伝いでね。立花が化粧、タカ丸が髪を結ってくれたんだ」



笑みを浮かべながら言う私の言葉を聞き、「そ、そうなんですか」と言いつついまだに顔の赤みが消えないハチ。「二人の技術って凄いよね。男の人がたくさん寄ってきて吃驚した」と何気なく言うと、ハチが「え」と言って俯いてしまった。え、え、どうしたというの。慌てて「ハチ……?」と声をかけるが、ハチの返答は無い。



「……小雪さんは、俺のなのに……」



小さく、その言葉が聞こえた。驚いて「え」と声を漏らしてしまう。一気に顔の熱が上がっていくのを感じる。え、どうしよう。なんて答えればいいんだろう。た、耐えられない。なに、この恥ずかしい現状は。なにか、なにか言わなきゃ。で、でも……、我慢の限界だ。



「――ばっ、ばーかっ!!」



あまりの恥ずかしさに、私はそんな言葉をハチに投げつけて逃走した。

 
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