第2話


目を開けると、木製の天井が視界に映った。ああ、そうか。太公望達を救う為に異世界に飛ばされたんだ。寝起きの為か少しばかり頭が痛くて「うーん……」と唸る。



「……起きたようじゃの」



その時、老人の声が聞こえた。何故だろう。私はこの声を、どこかで聞いたことがある。上半身を起こし、辺りを見渡す。隣にはお兄ちゃん、お父さん、お母さんがまだ寝ていた。確認し終わった後、目の前にいる老人の顔を見る。私は心底驚いた。確かに、この世界は私とお兄ちゃんが知っている世界だ。



「儂は大川平次渦正。忍術学園の学園長をしておる」



お分かりだろうか。私の目の前に居るのは、忍術学園の学園長。つまり、この世界は…――忍たま乱太郎の世界。私は正座をし、背筋をピンと伸ばす。そして、「ん゛ん゛っ」と喉の調子を整える。



「お初にお目にかかります。私は氷室小雪と申します」



そう言って、頭を下げる。歴史好きということもあって、こういう時の挨拶の仕方を軽く知っている私。この挨拶が役に立って良かった。頭を上げると、学園長先生は何故か笑っていた。



「――…やはり、おぬし達が”天の使い”であったか!」



学園長の言葉に、私は首を傾げる。”やはり”とは、私達がこの世界に来ることを知っていたのだろうか。それに、”天の使い”とは……。疑問に思っていると、学園長が懐から何かを取り出した。その何かを見ると、古びた巻物だった。



「これに書いてあるのじゃ。いずれ、この忍術学園に災いが起こる。そこで現れた氷室朝司、氷室緑子、氷室柊、氷室小雪の一家。その一家が、忍術学園を救う、と」



まるで予言だ、と思った。なんだか信じ難くてジッと巻物を見ていると、「おぬし等は儂の庵の庭で倒れておってな。おぬし等を見つけた瞬間、何故かこの巻物の内容が頭をよぎった」と私達が此処に居る経緯を説明された。……だとしても、



「一瞬でも、疑いはしなかったのですか?」



私の問いに、「疑った」と正直に言う学園長。けれど、「じゃが、”おぬし等は巻物の内容の者達”じゃという考えが全く消えなかったのじゃ」と続けた。私が名前を言ったことによって確信となったようだ。それにしても、忍術学園を救う、か……。力を得たとはいえ、得てから数時間か数分程度。そんなに期待されても……。



「そこで、四人にはその災いが起こるまで、この学園に住んでもらおうと考えておる。といっても、働いてもらうことになるがの」



働く……、といっても、何があるのか分からない。学園長先生に仕事の種類を聞いてみると、食堂の手伝い、医務室の手伝い、事務員の手伝い、お悩み相談室の4種類があるらしい。私がどれに当たるかは分からないけれど、誰でも出来る本当に簡単なことしかしないらしい。「分かりました」と頷くと、「もしもの時は、頼むぞ?」と言われた。私は正座をやめ、片膝立の状態で手を膝の上に置く。そして、軽く頭を下げた。



「――御意にございます」



まるで本物の家臣のようだ。この行動だけで少し舞い上がってしまう。そういえば部屋割りはどうなるのだろうか。そのことを聞くと、「少し待っておれ」と言われた。そのまま、学園長は立ち上がって庵を出て行く。その瞬間、緊張が解けて、その場に胡座で座る。さて、三人を起こさなくては。




 ***




三人を起こし、事情を説明する。とりあえず話したのは、ここが忍たまの世界だということ。それから、この忍術学園にお世話になることだ。大まかだったけれど、三人は理解してくれた。



「待たせたの」
「おかえりなさい。他の三人にも大まかに説明をさせていただきました」
「うむ、助かる」



学園長が戻ってきた。私は再び姿勢を整える。学園長の後ろには、先生が四人いた。学園長は先生方に視線を向け、「朝司は吉野作造先生、緑子は食堂のおばちゃん、柊は小松田秀作君、小雪は山本シナ先生と相部屋になってもらう」と言う。うおおおおお!!! シナ先生と相部屋ぁぁあ!! 美人さんと相部屋とか幸せすぎて禿げ萌える。禿げねぇけどな。
学園長先生の言葉に、お兄ちゃん達はそれぞれの相部屋の人に挨拶をする。勿論、私も山本シナ先生に「宜しくお願いします」と頭を下げた。山本シナ先生はニッコリと綺麗に微笑み、「こちらこそ」と言ってくれた。



「で、仕事じゃが……、朝司には事務員の仕事、緑子には食堂の手伝い、柊には保健室の手伝い、小雪にはお悩み相談室をやってもらう」



なんだか余り物が回ってきた気がしてならない。……まあ、良いか。私達は「はい」と返事をする。その返事を聞いた学園長は満足そうに頷き、「後は先生方に任せる」と言って、話を切り上げた。チラッ、とシナ先生を見ると、シナ先生は綺麗に微笑んでくれた。私、その微笑みだけで頑張れる気がします。

 
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