第17話


「誰か100点の答案用紙持ってる?」



三番目の厠の前へと到着した。花子さんの呼びかけは声と手さえあればできる。しかし、撃退をする時に必要なものを忘れていた。



「それなら、私が文次郎のものを持っています」
「っはあ!!? なんでお前が俺の答案用紙持ってんだよ!!?」
「お前が100点だということに納得いかなくてな、破り捨てようかと」
「なっ、なんて奴だ……!!」



立花と潮江の会話に苦笑しつつ、立花から100点の答案用紙を受け取る。ああ、確かに名前のところに「潮江文次郎」と書いてある。そこに、食満が「でも、何故100点の答案用紙が必要なんです?」と聞いてきた。



「詳しくは知らないけど、花子さんを撃退する方法らしい」
「……変わった方法ですね」
「……それ花子さんに言うなよ。何されるか分からん」



私がそう言うと、食満は顔を青くして頷いた。「さて、」と声を出して、厠へと向き直る。左手に答案用紙を持ち、右手でコンコンと厠の戸を叩く。



「はーなっこさーん、あっそびーましょー」
はーい?
「「「「っ!!?」」」」



厠の中から女の子の声がした。そして、ギギギ……、と厠の戸が開いた。そこには、目が空洞になっている以外は至って普通の女の子がいた。おかっぱの黒髪に、白いシャツに赤いミニスカ。噂の花子さんと同じ格好をしている。



「お姉ちゃん、お兄ちゃん、私と遊んでくれるの?」
「……ごめんね」
「え?」



バッ、と100点の答案用紙を花子さんに見せる。花子さんはその100点の答案用紙を見て、驚いた表情を見せた。次第に、顔が青ざめて行く。



嫌ぁぁああぁぁああぁあああぁあぁあ!!!!!!



耳が痛むほど甲高い声で悲鳴を上げる花子さん。咄嗟のことに驚き、目を瞑って耳を手で塞ぐ。花子さんの悲鳴は段々と消えていく。「消えた……?」と言う三木の声に、目を開ける。目の前にはただの厠があり、花子さんの姿は消えていた。



「花子さん終了?」
《ああ。さて、次は簡単そうな鏡のやつを行うとするか》



太公望殿の言葉に、皆が頷いて厠を出る。そこで、自分が手鏡を所持していないことに気づく。なんたる自分の女子力の低さ。



《立花仙蔵、手鏡を持っているか?》
「ええ、持っていますよ」



懐から手鏡を取り出す立花。太公望殿の野郎、私が手鏡を持っていないということを感づいていやがる。さすがは24時間ほぼ共にいるだけはある。立花は太公望殿の意図に気づいたのが、自分の手鏡に自分の顔を見る。……しかし、鏡なのに何も映らない。これは異常だ。立花が「ふむ」と何か考える素振りを見せる。そして…――、



「とうっ」
――ッバリィィィン!!



この男、勢いよく鏡を床に叩きつけやがった。立花のいきなりの行動に、誰もが驚く。だが、当の本人である立花は涼しげな表情。なんと恐い男だろうかガクガクブルブル。スッキリとした清々しい爽やかな笑顔を浮かべ、「これで鏡の件は解決、ですよね?」と聞く立花。私は「そ、ソウダネ……」と青ざめながらも頷く。今のところ、私の中で敵に回したくない忍たまNo.1だ。



「え、えっとー…、次は足のやつですよね」
「あ、ああ、そうだな」



立花に恐怖を抱きつつも、話を進める。とりあえず、足のやつを出す為には廊下を歩かなければならない。すぐに出てくる可能性が分からない為、もしかしたらひたすら歩くこともあるかもしれない。




 ***




「――……何も出てきませんね」
「もしかして、お兄ちゃんに先越された……?」



廊下を歩き続けて結構経った。なのに、足だけのやつが一向に出てこない。まさか、七不思議に違いがあったのだろうか。



「――お、小雪!!」
「あ、お兄ちゃん」



前方から小走りで近寄ってくるのはお兄ちゃん。その後ろに、ぞろぞろと滝やタカ丸達が着いて来る。お兄ちゃんは私の前まで来ると、「お前等んとこの足だけのやつ、さっき見つけたから撃退しといた」と言った。ふむ、やっぱり先を越されてたか。ふと、お兄ちゃんのチームが何人か増えていることに気づいた。その中には、安否が確認されていなかった五名がいた。つまり、鉢屋と尾浜、藤内、左門、三之助だ。五人とも怪我をしていない様子。良かった、なんともなくて。



「小雪さん!! その包帯、怪我したんですか!?」
「ん? ああ、大したことないよ」
「で、でも、少し血が滲んで……!!」
「大丈夫だって。それより、無事で良かった」



慌てる左門に向かって微笑む。すると、左門は頬を赤くしてぎゅっと抱きついてきた。可愛い可愛い可愛い。



「小雪さん大好きっ」
「左門も私の弟になる?」
「なります!! 氷室左門になります!!」
「あっははあ、嬉しいねえ」
《そのたるんだ顔どうにかしろ》



太公望殿の言葉に反論しようと、口を開く。だが、それは頭上からの声により遮られてしまった。



「――上手くいくと思ってたのに、とんだ邪魔が入っちゃったじゃなのよ!! もう!!」

 
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