第14話
アイツが前に進む度に「テケテケ」と音がしている。幸い、部屋の中に居る皆は、この状況に気づいていない。状況に気づいているのは私と太公望殿、綾ちゃんに潮江に七松の五人だけ。
「
あぁああぁぁあぁああ!!!」
テケテケが走った。しかも、物凄いスピードで。テケテケが向かう先には、テケテケに最も近い潮江。潮江はいきなりのことに固まってしまい、動ける状況ではない。「っ危ない!!」と急いで潮江の前に出る。
――ガブッ「ッつ……!!」
「小雪さん!!?」
潮江を庇った際に、テケテケに腕を噛まれてしまった。テケテケの歯は鋭く、噛まれたところから血が出ている。テケテケの叫びと、私と潮江の切羽詰まった声が聞こえたのか、部屋の中にいる皆が外に出てきてしまった。当然、私達の姿を見て驚きの表情を見せる。
「小雪さん……!!」
「中入っててよー。怪我しても良いのー?」
青ざめているタカ丸に、ヘラッとした笑顔を向けておちゃらけた口調で言う。タカ丸は、今にも泣きそうな顔をしている。
「貴女は馬鹿ですか!!? 腕が……!!」
潮江の言葉に、私は再び自分の腕に目を向ける。いまだ、テケテケは私の腕に噛みついている。噛みつかれている腕の反対の手で、テケテケの頭を鷲掴みする。ぐぐぐ、と引っ張ってみると「ギアッ!!」と悲鳴をあげて離れた。そして、私の手から逃げるように放れ、地面へと、ドスッ!!、と落ちる。不安そうな顔をした綾ちゃんが、「っ小雪!!」と私に近寄る。そして、私の腕を見て泣きそうな顔をした。腕には歯型がついていて、血が所々から出ている。
「す、すみません!! 俺が反応できなかったから……!!」
「いや、無理もないよ。あんなん見たら、誰だって固まる」
そう微笑むと、潮江は複雑そうな顔をして目線を逸らした。……今は、そっとしておいたほうが良いのかな。そう思い、再びテケテケへと目を向ける。まさかホラーで来るとは思っていなかった為、お経や陰陽師の術など覚えていない。
「どうやって消せば良い?」
《普通に倒せ。そうすれば消えるはずだ》
「了解」
頑張って起き上がろうとしているテケテケ。私はテケテケに向かって、釣竿方宝貝の先を向ける。すると、テケテケの下にある地面に、太極図が浮かび上がる。
ッドォォオオン!!!
「ッあが……!!」
「よいしょ」と釣竿型宝貝を振りかざし、太極図を爆発させる。爆発の中心部にいるテケテケは、当然爆発に巻き込まれる。煙が晴れたころには、テケテケの姿は無かった。
「終了……?」
《テケテケだけは、だな。まだ不穏な空気が広がっている》
「まだ居るのか」
思わず溜息をつく。すると、誰かがぎゅっと抱きついてきた。目の隅から灰色の髪の毛が見える。ああ、綾ちゃんか。更には、「小雪さん!!」「早く手当てしないと!!」と、タカ丸と三木も、綾ちゃんと同じように抱きついてきた。
「こら、三人とも! まずは小雪さんの手当てを優先しなきゃ!!」
その時、善法寺伊作が三人を私から剥がしながら言う。そのことに三人とも不機嫌だったけど、仕方ない。善法寺伊作に「腕を見せてください」と言われ、素直に腕を差し出す。すると、善法寺は私の腕を手にとってまじまじと怪我を見始める。
「あまり深くは無いようですね。ですが、油断は大敵です。すぐに手当てをするべきですね」
その言葉に、「小雪、保健室!!」と怪我をしていないほうの腕を綾ちゃんに引っ張られる。「え、ちょ、」と戸惑っているうちに、三木とタカ丸に「ゆっくりしてる場合じゃないです!!」「怪我が悪化したらどうするんですか!!」と言われてしまった。そして、強引に三人に手を引かれる。向かう先は保健室のようだ。