06


秋奈が自分の家族のことを話してくれた。ぽつりぽつり、と呟くように。実はその時、私もきり丸も起きていた。きっと、秋奈はそのことに気づいていなかっただろう。話を聞いていて、胸が痛んだ。両親の話をするときは、苦しい表情で。でも、兄の話をするときは、少し嬉しそうな表情で。秋奈にとって、それほど兄の存在が頼りだったのだ。



「――…死のうと、したことがあるの」



その言葉を聞いて、私はつい手に力を入れようとしてしまった。なんで、こんな小さくて将来希望のある子が自殺なんかを……。そこには、絶対私が知らない心の痛みがあったはずだ。家族がいる、という言葉で”幸せ”だと思ってはいけない。家族がいる。だからこそ”辛い”ということもあるのだ。そして秋奈は、私達にお礼を述べて再び眠ってしまった。



「――…土井先生……」
「……まだ、寝かせてあげよう」
「はい……」



寝てしまっている秋奈を、そっと撫でた。大丈夫。安心しなさい。お前は、私達が守るから。




 ***




重いまぶたを開ける。映り込んで来たのは木製の天井。そこに、きり丸の顔がひょこっと出てきて、「おそよー」と言ってきた。寝起きである為、掠れている声で「うい」と一言返事をする。そして、瞼を閉じる。



「っちょ、また寝ようとしないでよ!! もうお昼だぜ!?」
「うー……」



頭がまだ寝ぼけている。それに声もいつもの声で出てくれない。寝起きの声は低いし擦れてるから嫌なんだよなー。そう思っていると、



「コラ秋奈!! ちゃんと起きろ!!」



と土井先生に掛け布団を取られてしまった。くそ、土井先生め。私は仕方なく起き上がる。着物を持って、二人がいない部屋へ足を運ぶ。黒いTシャツを着て、黒い短パンを穿く。その上に着物を着つけた。これで多少荒っぽいことしても下着が見える事はない。土井先生ときり丸のいる部屋へ来た。



「わあ!! 秋奈姉、似合ってんじゃん!!」



きり丸が私の着物姿を見て、そう褒めてくれた。私はデレデレしながらも「ありがとう」とお礼を言う。けれど、土井先生は「馬子にも衣装だな」と言う。そんな土井先生に「殴るけど良い?」と聞くと、土井先生は慌てて「とても似合っている!!」と言い直した。最初からそう言えばいいものを。着ている着物は、昨日買った着物。ちなみにきり丸が選んでくれた控えめの赤色の着物だ。



「そうだ、櫛ってある?」
「あ、櫛なら俺持ってる!!」



懐から木製の櫛を取り出すきり丸。そして、笑顔で「はい」と差し出してくれた。私はその行動に癒されつつ、「ありがとう」と言って受け取る。普段は水とか使って寝ぐせを直すんだけど……、触った感じ今日は全然寝ぐせがないようだ。これくらいなら櫛でとかすだけで大丈夫。



「はい、ありがとね」
「その櫛、秋奈姉にあげるよ」



お礼を言って櫛を返そうとすると、きり丸がそう言った。そのことに「でも、これきり丸のじゃ……」と言うと、きり丸はニカッと笑みを浮かべる。



「それタダで貰ったやつなんだ。秋奈姉が欲しいならあげる」
「〜〜っきり丸ありがとう大好き!!」



きり丸の男前さを感じつつ、私はきり丸に思いっきり抱きついた。頭ひとつ分くらいしか変わらない身長差。きり丸はすっぽり私の腕の中へと収まった。きり丸は「秋奈!!?」と驚きはするものの、私を邪険に扱わない。私の勘だけど、きり丸は将来モテる気がする。あくまでも、勘。




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