05


朝、起きたら私は土井先生に抱きしめられていた。手に何かの感触があると思ったら、それはきり丸の手。……ああ、そうか。夜中に泣いちゃったんだった。恥ずかしいな。顔はずっと手で覆ってたけど、さすがに泣き声は隠せなかった。寝ちゃった後、二人はずっとこうしてくれていたのか。



「……ありがとう……」



確かに、家族と離れ離れになってしまったのは寂しい。でも、私には土井先生ときり丸がいる。こんなに優しくて温かい。二人に会えて、とても良かった。寝ているけれど、私の隠していることを言おう。ずっと私が溜めこんでいたこと。お兄ちゃんにしか話していなかった。でも、この二人になら言っても良いよね……?



「私のお父さんは、よくお金を使う人だった。お酒買ったり、煙草買ったり。お金使いすぎで、挙句の果てにはお母さんにも子供の私にもお金をせがむようになった。断ると、怒鳴られるの。……でも、昔はよく遊んでくれてたんだ」



いつからだろう、お父さんが変わったのは。小さい頃に変わったから、理由は分からない。



「お母さんは、お父さんのこととか仕事のこととかで疲れて……、よく愚痴を言うようになった。反攻すれば、”お母さんにその態度は何?”、”貴女が生まれたのは誰のおかげ?”、って」



お母さんは、歳を取るごとに性格がキツくなっていった。嫌いだったはずの悪口も、たくさん言うようになった。



「唯一の救いは、お兄ちゃんだった。お兄ちゃんは優しくて、いつも私の相談にのってくれた。私は、そんなお兄ちゃんが大好きで、よくくっついてたんだ」



優柔不断ですぐに考え込むお兄ちゃん。自分で”ブラコン”と言えるほど、大好きだった。



「――…死のうと、したことがあるの」



何回も何回も。包丁の先を胸にあててみたり、ベランダから飛び降りようとしてみたり、首つりをしようと思って首つりの道具を揃えてみたり。



「でも、恐くてやめた。現実から逃げようと思ってたのに、勇気が出なくて死ねなかった」



情けない。本当に死にたいなら、死ねたはずだろう。死ねなかった時、私は凄くつらかった。「ああ、また死ねなかった」その繰り返しで、私は16歳になった。嫌いだ、こんな世界。嫌いだ、あんな両親。嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。……でも、居なくなったことを想像すると涙が出た。私の心は、矛盾だらけだ。



「……でも二人は、こんな私を受け止めてくれた。こんな、何もできない小娘なんかを」



優しすぎるんだよ。忍のくせに。忍はもっと疑わなきゃ駄目でしょう。ほら、私みたいな奴を疑わなきゃ。簡単に人を信じちゃ駄目。そんなんじゃ誰かに殺されちゃうよ。



「――…迷惑かけて、ごめんなさい。本当に、ありがとう」



私はそう呟いて、再び目を閉じた。土井先生の心臓の音。きり丸の手のぬくもり。こんなに近くで人を感じたのは久しぶりだ。




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