04



きり丸、私、土井先生という川の字で寝た私達。寝ようと思い、マスクを取ったらきり丸に、「秋奈姉、ねずみに似てる! 可愛いー!」と言われてしまった。可愛いに関しては嬉しい。けど、”ねずみ”は酷い。せめてハムスター、は、この時代にはいないのか。土井先生にも見られ、「本当だ。口元がねずみそっくりだな」と言われてしまった。なんだよ二人してねずみねずみって。私はそんなに薄汚いイメージですかアァン? そんなこんなで傷つきつつも寝たのだが……、私はいまだ寝れずにいた。土井先生ときり丸はいびきをかいているので、寝ているのだろう。私はゆっくり布団から出て、壁に背中を預けて窓から見える月を見た。



「……満月……」



現代とは違い、月がはっきり綺麗に見える。こんなに綺麗な月を見るのは初めてで、思わず見入ってしまった。周囲を見渡し、改めてここが平成ではないことを思い知らされる。圏外になっている携帯。現代との連絡手段が途絶えてしまっている。



「――…ずっと聞こえてたよ…♪ ずっと探してたよ…♪」



寂しさを紛らわす為に、口ずさむ程度に歌を歌う。これで寂しさが消えるわけじゃない。でも、歌わなければ涙が出そうだ。



「――…運命の輪を廻し続けても…♪ 君の姿、蜃気楼より遠すぎて…♪」



怒りっぽかったけど、誰よりも無邪気でたくさん遊んでくれたお父さん。



「――…時代とか星とか全てを束ねて…♪ 思いリンクしたら始まる…♪」



家事や仕事で疲れているのに、それでも私の為になにかをしてくれたお母さん。



「――…遥か先へあまねく記憶たずさえて…♪ 私に寄り添ってた音…♪」



ちょっと厳しいけれど、温厚で優しくて心の痛みが人一倍分かるお兄ちゃん。



「――…いつかきっと…♪ 宇宙の色も塗り替える…♪」



私は、ここに居ます。ちゃんと、生きています。そっちで私が行方不明になっていても、どうか泣かないで。



「――…夢見て…♪ 明日も僕等は誰かに歌う…♪」



歌い終わってしまった。集中が途切れ、涙が出てきた。拭いても拭いても止まらない。
その時、ぐいっ、と誰かに腕を引っ張られた。びっくりしている間に、私は誰かに抱きしめられた。背中にまわる大きな手。私の手を握る小さな手。その手は明らかに土井先生ときり丸の手。いつの間にか起きていた。起こしてしまった。迷惑だっただろうか。



「我慢しなくて良い。泣きたいなら泣け」
「俺達、秋奈姉の味方だから」



二人の言葉に、先程より多く涙が出てきた。家族に会えない苦しさ。こんな私に二人が優しくしてくれる嬉しさ。両方の意味で、涙が溢れ出て止まらない。



「っおと、さ……! おかあ、さ……! お、に、ちゃん……!」



いつぶりだろう。こんなに大泣きしたのは。ここ数年は、こんなに泣くことはなかった。ずっと泣き続ける私を、土井先生ときり丸は黙って私の泣き声を聞いていた。その後のことは、よく覚えていない。でも、きっと泣き疲れて眠ってしまったのだろう。




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