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「――…寂しい……」



何も無い殺風景な部屋に置かれた。周りは静寂に包まれている。忍術学園なら、もっと賑やかだった。ここに来て、忍術学園の暖かさが身に染みた。これから此処で過ごすのか、と思っていると「秋奈様、お食事をお持ちしました」と女中の人が、夕食を持ってきてくれた。「はい」と返事をし、女中の人を部屋の中に入れる。女中は「失礼します」と私の部屋に入ると、私の目の前にそっと夕食を置いた。



「外に居ますので、何か御座いましたらお声をおかけください」
「はい」



返事をすると、女中は部屋を出て行った。……どうしよう。今はまだ食欲が湧かない。周りには女中が一人だけ。……今なら、逃げることは可能だろうか。そっと、腰に下げている銃に触れる。大丈夫。きっとやれる。こういう時の為に、土井先生に稽古を頼んだのだから。スーッ、と障子を開ける。



「秋奈様、如何なされました?」
「……すみません……」
――トスッ
「……あ……」



女中の首の裏に手刀を落とす。それにより、女中は気絶してしまった。ふと、外が騒がしいのに気づく。まさか、私が逃げようとしていることがバレて……? いや、そんなまさか……、今計画したばかりだし……。



「――…秋奈ッ!!!!」



名前を呼ばれた。その声は、今とても聞きたかった声。私は、バッ、と後ろを振り向く。「……七、松……」と震える声で呼ぶと、私の名前を呼んだ張本人である七松は、ニカッ、と元気に笑った。その姿は血がついている。でも、そんなの構わない。私は思いっきり、七松に抱きついた。



――ぎゅっ
「秋奈!? 血がつくぞ……!?」
「良いよ、そんなの……」



七松の温もりが伝わってくる。それだけで、自然と心が安らぐ気がした。名残惜しいけど、このままで居るのもアレな為、七松から離れる。



「もしかして、外が騒がしいのは……、」
「ああ。忍術学園総出で、お前を助けにきた!」



七松の言葉に、涙が出てくるのを感じた。でも、今は泣いてる場合ではない。袖でゴシゴシと目を拭く。



「――…行こう、秋奈」
「――…うん!」




 ***




それは、見たくない光景だった。走って、大きな庭園へと来た。そこは血がたくさんあって、死体もたくさんあある。だが、それは全て……――忍術学園の生徒達のものだった。



「そんな、何で……」



頭の中が真っ白になった。六年生達も五年生達も四年生達も、三年生達も二年生達も一年生達も先生方達も。皆の体からは血が大量に出ていて、ピクリとも動いてはくれない。
私のせいで……。全部全部、私のせいだ……。



「――…残念だったな」



急に現れた毒藻津照門。七松は咄嗟にクナイを構える。毒藻の周りには、数えきれない程の家臣達と忍者。100人は絶対に居るであろう、その数。皆は、コイツ等に殺されたんだ。「忍術学園が数で勝てるわけが無いだろう?」と、ニヤリ、と嫌らしく笑う毒藻。すると、毒藻が片手を上げた。それと同時に前に出てきた弓矢を構えた兵士が2人。1人は私を、1人は七松を狙っている。



「――やれ」



手を振り下げる毒藻。それと同時に、二人兵士は弓矢を引き、手を放す。七松は咄嗟に私の前に出るものの、矢は一本ずつ、私と七松に向かってきた。



――ドスッ
「がッ……!!」
――ドスッ
「ッ!?」



胸に走った痛み。成すすべなく、矢は私の胸に突き刺さったのだ。……ああ、死ぬのか……。こんな所で、こんな奴等に……。気が付けば、私は七松に手を伸ばしていた。そして、勝手に口が開いた。



「――…七松、好きだよ……」



死ぬ前に言いたかった言葉。こんな状況で言うなんて嫌だったけど、仕方ない。私の言葉に、七松が「私もだ」と返事をした気がした。すぐに、目の前が真っ暗になった。




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