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庭に呼び出された。
私と秀作が行った頃には、既に全校生徒と先生方達が集まっていた。皆の目の前には、土井先生が立っている。その隣には、泣きそうな表情のヘムヘム。「よし、全員集まったな」と深刻そうな声で言う土井先生。もしかして、何か問題が起きたのだろうか。土井先生の表情と低い声に、誰もが真剣な表情をしている。



「――…学園長先生が攫われた」



一瞬でざわついた。学園長先生が攫われただなんて……、前代未聞だ。何故、学園長先生が攫われてしまったのだろうか。顎に手を当てて考えてみるが、よく分からない。ふと、何処からか視線を感じた。そちらの方を見ると、土井先生が心配そうに私を見ていた。



「……?」



だが、目が合った瞬間に視線を逸らされてしまった。土井先生の行動が分からず、少し首を傾げる。あの表情は、あの視線は、一体何だったのだろう。疑問に思っていると、土井先生から何故学園長先生が攫われたか経緯を説明された。どうやら学園長先生は、一人で庵でくつろいでいたところを攫われたらしい。学園長先生を攫ったのは、以前きり丸が危ないバイトをしたニガクリタケ城城主、毒藻 津照門(どくも つてるもん)。ちくしょう、ふざけた名前しやがって。



「城主である毒藻津照門は、要求をしていてな……。学園長を返してほしければとある人物を連れて来い、と言っている」
「その”とある人物”とは?」
「……それは……、」



土井先生が言いづらそうに目を伏せる。そして、私を見た。思わず「え……?」と呟く。土井先生の視線の先には私。皆が土井先生の視線を辿って、私へと目を向けた。隣にいる秀作が「嘘ぉ!!?」と叫んだ。



「毒藻津照門は、秋奈が未来から来たという情報を知ったらしい。それで、秋奈を娶ろうと……」



……ああ、納得した。先程、土井先生が心配そうに私を見ていた理由。それは、土井先生の今の話の内容が原因だったのか。動揺しつつも納得していると、きり丸が「なんスか、それ!!」と声を荒げた。



「なんで、それだけの理由で秋奈姉を取られなくちゃならないんスか!!」
「……きり丸、気持ちは分かる。だが、こうしている間にも、学園長先生は……」
「ッ……なんで……」



顎に手を当てて考える。敵が狙っているのは私であり、学園長先生ではない。これは考えを変えれば好都合なのではないだろうか。私が嫁ぐことによって、学園長も忍術学園も危機にさらされなくて済む。



「秋奈ちゃん、変なこと考えてないよね……?」
「いや、考えてるよ」
「え!?」



私が嫁いでしまえば、死者は出ないだろう。……となると……、やっぱりここは私が嫁いだ方が一番安全なやり方だな。でも、問題はその後だ。ずっと毒藻津照門の妻になったままか、なにがなんでも逃げるか。



「……土井先生、ニガクリタケ城ってどこ?」
「っ……私が案内する。着物は、未来のものを望んでいるらしい」
「……分かった。着がえてくる」
「っすぐに行くつもりか!!?」
「早いほうが良いでしょ?」



複雑そうな顔をする土井先生。私はわざと笑う。そして、着がえるべく皆に背を向けて長屋へと向かった。




 ***




「お待たせ」



着替え終わり、皆のいる庭へと戻ってきた。皆は私の服装を見て、目を丸くして驚いている。今の私の服装は未来の服。赤っぽいストッキングに、黒いTシャツと黒い短パン、そして上着。この時代の人達からすれば、珍妙な格好だろう。



「……秋奈、」



腕をグイッ、と引っ張られた。驚いていると、私はいつの間にか土井先生の腕の中へといた。……心なしか、土井先生の体が震えている。「こんな、犠牲になるような真似……、ごめんな……」と声も震えていながらも謝った。私はそっと土井先生の背中へ腕を回す。



「大丈夫。……お世話に、なりました」



私がそう言うと、土井先生の抱きしめる力が強まった。そして、泣くのを我慢する声が聞こえる。それは土井先生だけでは無くて、四方八方からも。……ああ……、みんなは、こんな私の為に泣いてくれるんだね……。なんて優しくて温かい人達。




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