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突然だったのだ。混乱して、よく分からなくて、ただ呆然とした。心臓の音がバクバクと聞こえる。これは夢か、現実か。お兄ちゃんからメールが来た。突然音が鳴って驚きはしたけど、それと同時に嬉しかったりもした。でも、内容は驚くべきものだった。



≪お父さんとお母さんが離婚した。≫



嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。私は望んでいた。離婚をすれば皆喧嘩をしなくて済む、と。でも、実際には違った。心の底では、離婚を望んでいなかった。



≪俺は、一人暮らしの友達の家で世話になってる。俺のことは心配しなくていい≫



強がってるお兄ちゃん。心配するな、って言われても無理だよ。メールで離婚のことを伝えたのは、電話では話せなかったってことでしょ……? お兄ちゃんは、大事なことはいつも電話で直接伝えてたし。泣いてるんだよね……?



「どうして……」



裏切られた気がした。
お母さん、いつも言ってたよね? 「貴方達が成人するまで、離婚はしない」って。お父さん、いつも言ってたよね? 「離婚しないように、仲を取り持つ」って。私が二人を本当に好きなのなら、私は離婚を心の底から喜んだだろう。「二人とも、やっと幸せになれるね」って。でも、私達子供のことは考えてくれた……? 我が強い二人のことだから、きっと私達子供のことなんて考えてなかったんだよね。考えれば考える程、涙が出てきた。ああ、駄目だ。涙が止まらない。



「――…秋奈、泣いているのか……?」



声を掛けられ、ビクッとしてしまった。声がした後ろを振り向くと、七松がいた。「ななまつ……」と呟くけれど、ちゃんと名前を呼べたか分からない。耐えられなくなった。気がついたら私は、七松に抱きついていた。「秋奈……?」と声をかけられたけど、返事をすることはできない。涙が溢れ出して止まらない。



「っふ……っ……っく、う……!!」



ぎゅうう、と抱きしめる力を強くする私。七松は訳が分からないだろうけど、私を抱きしめ返してくれた。何故だろう。すごく、安心してる。七松の心臓の音が、リズム良く伝わってくる。それが妙に心地良い。



「大丈夫だ。私がついてる」
「うぇえっ……! な、なまつ、うぅ……!!」



七松の言葉に、私は嬉しくなった。心に響いたのだ。そこで気づいた。私はいつも、ときめくたびに「トゥンク」と言っていた。だが、それは全て、七松に向けてしか言っていない。どうしてなんだろうって考えた。ああ、そうか。答えは簡単じゃないか。……私は、いつの間にか、七松のことを好きになっていたんだ。



「大丈夫、大丈夫」



ポンポン、と私の背中を優しく叩く七松。「私のほうが年上なんだけどな」と、少し照れくさくなった。




 ***




「落ち着いたか?」
「……うん、ありがとう」



あれから何分か経って、涙がようやく止まった。七松から離れ、お礼を言う。でも、酷い顔を見られたくはないので、顔は俯いたままだ。すると、七松の手が私の頬を包みこんだ。そして、グイッと顔を上げさせられる。



「ちょっ、今顔酷いから……!!」



慌ててそう言うが、七松は放してくれない。ただじっと、私を見ている。私は段々居たたまれなくなって、視線を泳がせる。その時、「可愛い」と目の前にいる七松が呟いた。「は?」と小さく言いながらも七松を見ると、七松は珍しく真剣な表情で私を見ている。



「泣いている秋奈も、可愛い。抱きしめても良いか?」
「はあ!!? 何言ってんの!!?」



ボッ、と顔が赤くなるのが分かる。あわわわわ。七松の顔がまともに見れない。



「秋奈、顔が赤いぞ? ……あ!! まさか照れているのか?」
「っ!! ちっがうわ!! 誰が照れるか!!」
「お、ムキになるとは」



何故かニヤニヤしている七松。七松は、忍たまとはいえ、プロ忍に近い素質を持っている。もしかしたら、七松は私の気持ちに気づいているのかもしれない。なんということだ。



「っわ、私、行くから……!!」
「泣いた顔でか?」
「そ、それは……、」



確かに泣いた顔では出歩けない。いつもよりブスになった顔で歩いたら、皆に笑われてしまう。躊躇した私に、七松は「もう少し話そう!!良いだろう?」とニカッ、と笑って言う。どうにも七松に敵わないようだ。私は溜息をついて「良いよ」と言った。
――…ああ、厄介な人を好きになってしまった。




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