03


「着物……?」



家にあがり、きり丸が作ってくれた夕飯を頬張る私達。「10歳でこれほどまでに作れるとは凄いな」なんて考えていたら、土井先生が「秋奈の着物を買いに行く」と言い出したのだ。まあ、確かにこの格好じゃ怪しまれる。現在の服装はただの黒いTシャツに白い上着、赤っぽいストッキングに黒い短パン。



「じゃあ三人で行きましょうよー!!」



そう言うきり丸だったが、今の私の格好で外に出ると周りからジロジロ見られるに違いない。私は土井先生を見た。土井先生も私を見ていたようで、目が合った瞬間苦笑された。



「秋奈には私のおさがりを来て行ってもらうことになるが、構わないか?」
「うん、良いよ」
「やった!! じゃあ、早く食っちまおうぜ!!」




 ***




あの後、食事を済ませて土井先生のおさがりの着物を着た。もちろん、その際二人には後ろを向いてもらった。そして現在、古着屋に来ている、のだが……、



「えー!? 秋奈姉にはこっちの控えめの赤が似合うッスよー!」
「いいや! 絶対淡い紫だ!!」



なにやら私抜きで、着物の争いを始めてしまった二人。色とかは基本なんでも良いんだけれど、派手なのはやめてほしいな。まあ、心の中で言ったって仕方ないんだけど。っていっても、二人とも目立たない感じの色を選択してくれてるから良いか。



「あらあら、お兄さんと弟くんは随分あなたのことが好きなのね」



後ろから聞こえてきた声。振り向いてみると、にっこり微笑んだ30代くらいの女性がいた。「えっと……、」と返答に困っていると、「あたしは弥生。この店の店長代理をしているの」と自己紹介された。私は慌てて「天道秋奈です」という。弥生さんは「秋奈ちゃんね」と笑みを浮かべ、土井先生ときり丸に視線を向ける。



「あの二人、秋奈ちゃんの家族でしょう?」



弥生さんの言葉に、私はいまだ喧嘩を続けている土井先生ときり丸を見た。家族、なのだろうか。私から家族と言って、図々しくはないだろうか。それに、この世界に来てまだ一日目。この関係は、なんと言ったら良いか……。



「私、居候させていただいてる身で、その……」
「居候? それでも、家族になるんじゃない?」
「え?」
「一緒に暮らしてるんだもの。家族でしょう?」



ニッ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべる弥生さん。私も、つられて笑ってしまった。そうか、そういう考えもあるのか。「ありがとうございます」とお礼を言うと、「どういたしまして」と元気に返事をした。「ところで、」と弥生さんが私の口元へと目を向ける。私はそれを不思議に思いつつも、今現在私がマスクをつけていることに気付いた。



「その白いの、なに?」



ああ、やっぱりマスクのことでしたか。あわわ、なんて言い訳しようか。さすがに「未来のものでーす!」なんて言えないし。少しあせりながらも「父から貰った物なんです。私、顔見られるの恥ずかしいからこれで隠そうかと」と説明をする。すると、弥生さんは納得したようで「なるほど」と言った。



「でも勿体ないわね。可愛い顔だったら台無しじゃない」
「あ、お粗末なのでそこら辺は心配いらないんですよ」
「えー?」



「秋奈ちゃんの顔見たいなー」と呟く弥生さん。私は素顔を見られたくない為、その言葉を無視した。その時、「秋奈!!」と名前を呼ばれ、土井先生のほうを向く。すると、土井先生ときり丸が私のところへ来た。



「秋奈姉はどっちが良い!?」



ズイッ、と各々の着物を前に出す二人。私はそれに苦笑しながら、心の中では「どっちでも良いんだけどなー…」と思う。とりあえず、



「どっちの着物も私好みだから、どっちも買っちゃ駄目かな?」



と言う。この言葉に嘘偽りはない。本当に、どっちの着物もよく見ると良い感じの着物なのだ。むしろ好みの部類に入るほどに。私の言葉に、二人は唖然とする。その隙に、弥生さんは二人から着物を奪って着物を綺麗にたたんだ。



「あ、勘定……!!」



慌てて銭の入った袋を懐から取り出す土井先生。しかし、弥生さんは「金ならいらないよ」と、それを止めた。その言葉に土井先生が「えっ」と驚いていると「今日は秋奈ちゃんに免じてサービス!!」と言う。その言葉に「サービスゥー!!?」と過剰反応するきり丸。相変わらずなんだから……。



「し、しかし、それは……、」
「いいのいいの。店長代理の私が言っていんだからさ! ね?」



「はい」と私に綺麗にたたまれた着物を手渡す弥生さん。私はおどおどしながらも、二着の着物を受け取った。そして、「あ、あの、ありがとうございます!!」と頭を下げる。弥生さんは「良いの良いの」と笑顔を浮かべて言う。



「また着物を買いたいときは、此処においで!!」




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