52


肝試しの一件で、琴音さんは学園から追放されてしまった。琴音さんは「どうして!? なんで!?」と喚いていた。だが、学園長先生直々の命令だ。逆らったら先生方に何をされるか分からない。琴音さんは、渋々ではあったが学園を出て行った。



「おい小娘」
「げ」



現在、五年生メンバーと食堂で昼食を食べている。和気あいあいと話していると、目の前に嫌な男が現れた。「不本意だが声をかけてやった」と言うかのような物言いの男。声をかけられ、男の顔を見る。その瞬間、私は逃げようかと本気で思った。



「なんだ、その嫌そうな顔は」
「”嫌そう”じゃなくて”嫌”なんです。で、利吉さん、私に何か用ですか」



利吉さんを睨み、ツンツンしながら話す私。私の言い方に、利吉さんは眉間に皺を寄せる。五年生メンバーは私が利吉さんと知り合っていることを知らなかったようで、驚いている。



「相変わらずの生意気な態度だな」
「ええ、ありがとうございます」
「……まあ、いい。お前、小松田君と仲が良いんだってな?」
「……だったら何か」



何やら不穏な空気が漂っている。ごめんね、五年生メンバー。これから一波乱が起きそうです。心の中では謝りつつ、私は利吉さんを睨んだままだ。



「よくあんな男と一緒に居れるな。失敗ばかりだというのに。まさか、あんな男が好みなのか?」
「いいえ」
「そうか、安心した。お前も少しは常識を持った女なんだな」
「そうですか」
「それで顔も良くて女性らしければ、私が妻に迎えたのに」
「それは申し訳ございません」



この人は一人でよく喋るなあ。私は簡単に返してるのに、結構長く返事が返ってくる。さて、お昼ご飯も食べ終わったことだし、そろそろ仕事に戻ろうかな。私は立ち上がる。そのことに、尾浜が「あれ、もう行っちゃうの?」と聞き、私は「うん」と頷く。その隣で竹谷が「最近手伝う仕事の量増えたしなあ」と納得したように言う。



「えー。もっと話そうぜー」
「三郎、秋奈ちゃんにだって仕事があるんだから」
「放課後に話そ。皆はまだ授業があるわけだし」
「夕餉も一緒に食べるのだ」
「ん、分かった」



食器が乗ったお盆を片手で持ち、不貞腐れている鉢屋の頭を優しく撫でる。少し驚いた鉢屋だったが、すぐに照れくさそうにそっぽを向いた。その姿に笑いつつ、私は「じゃあね」と言って食器を返した後、食堂を出た。




 ***




「……態度が明らかに違う」



五年生メンバーに優しく接していた秋奈の姿を見た利吉が、そう呟いた。しかし、五年生メンバーには聞こえていたようだ。三郎が苦笑しながらも、「利吉さん、なんか秋奈にキツくないですか?」と言う。利吉はその言葉に「まあ、出会いが最悪だったからな……」と呟く。あの時、利吉はとある任務で黒い忍装束に身を包んでいた。任務帰りに忍術学園に寄ったのだが、そこには秋奈がいて、武器を構えられたから利吉も警戒して攻撃をしかけた。しかし、すぐに利吉の父親である山田伝蔵が割って入って来て、秋奈も利吉も怪我をしなかった。「あれ以来、どうしてもキツくあたってしまうんだ」と、ため息をつきながら額に手をあてる利吉。



「しかも、私がキツくしてしまうせいで、彼女も突っかかってくるし……」



その言葉に、五年生メンバーは苦笑する。利吉は自覚しているようだが、なかなか直せないようだ。



「今までの態度を謝ってしまえば、秋奈も普通に接してくれるんじゃないですか?」
「……そうか……?」
「はい、きっと」



兵助の言葉に、利吉は何やら考える素振りを見せる。どうやって謝ろうか、考えているようだ。だが、謝っただけで秋奈は許してくれるだろうか。少し不安が胸を締め付ける中、作戦会議が開かれた。





 ***




庭で掃除をしている秋奈。そんな秋奈の様子を、利吉と五年生メンバーは長屋に隠れて見ていた。利吉と五年生メンバーが顔を見合わせる。利吉が頷き、秋奈の元へと足を運んだ。



「やあ、秋奈ちゃん」



片手をあげ、爽やかな笑顔で秋奈に声をかける利吉。秋奈は利吉の姿に少し眉間に皺を寄せた。しかし、「どうも」と無愛想ではあるが、返事をする。



「いつもキツい態度ですまなかったね」
「は……?」



クイッ、と秋奈の顎を上げる利吉。秋奈は、いつもと違う利吉の姿に戸惑っているようだ。まあ、無理もない。秋奈は「頭でも打ったんですか?」と声に出そうとするけれど、それより先に利吉が口を開いた。



「可愛い子ほどいじめたくなる性質でね。少々、キツくしてしまった」
「い、いや……、えっと……」
「安心してほしい。私がキツくしてしまうのは、君が可愛いからなんだ」
――ちゅっ



利吉が、秋奈の額に唇を落とした。その行動には、遠くで見ていた五年生メンバーも驚いている。まさか利吉がここまでするとは思わなかった。一方、秋奈は俯いている。



「ああ、ごめん。どうしても、気持ちが抑えられなくて」



照れ笑いをする利吉。だが、これは彼の本心ではない。秋奈と普通に接する為の演技だ。どうやら、利吉は秋奈が照れているのだと思っているようだ。しかし、秋奈は顔をあげて利吉を、キッ、と睨む。



「――…好きでもない貴方にやられたって、全然嬉しくないです!!」



秋奈はそう言い、どこかへ走って行ってしまった。遠くのほうで秋奈が、「土井先生!! 土井先生はどこ!!? 今すぐ消毒してぇぇえ!!」と叫んでいるのが聞こえる。



「あんの……、小娘がぁぁぁあぁぁああああああああ!!!!!」



どうやら仲良くなることはできないようです。




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