51


――ガサッ
「ひっ……!!」



茂みや木が風に揺れた音でも、ビビリな私は恐怖心が消えない。その為、私の両隣には竹谷と斉藤が居る。竹谷が心配そうに「大丈夫か?」と聞いてくれるけれど、私は首を横に振りながら「む、無理無理無理!!」と声を震わせて言う。



「あともう少しで終わりだよ。頑張って」
「な、なななななんで平気なんだよ……!!」



ふおおおおお。足も手もガクガクブルブル。あまりにも恐くて、涙目になっている私。



――ガサッガサガサガサッ
「っうあああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃいいい!!!!」
「秋奈ちゃん、風が吹いただけだよ〜」
「ほんと恐がりだなあ」



のほほんと言う斉藤に、苦笑している竹谷。こんな状況でも平気な二人は本当に凄い。さすがは忍者。あれ、忍者って関係あるのかな……。ああ、そうだ。こんな時は歌でも歌おう。そうすれば、気が紛れるはずだ。



「そ、そうさ100%勇気♪ もう頑張るしかないさ♪ この世界中の元気抱きしめながら♪」



……これ歌っても効果ないかもしれない。



「そうさ100%勇気♪ もうやりきるしかないさ♪ 僕達が持てる輝き永遠に忘れないでね♪ ……って何サビから歌ってんのォオ!!? そらすぐに終わるわなァア!!」



馬鹿でした。まだまだ出口は見えない。完璧に判断をミスった。思わず遠い目をしていると、斉藤に「今のって歌?」と聞かれた。私は「うん」と頷くけれど、「未来のだけど」と苦笑する。



「ねえ、他にも歌ってよ!!」
「俺も聞きたい!!」
「は。マジかい」



他に、って言われても……。とりあえず思いついたやつを歌おうか。この場に似合いそうな歌……。いや、似合いそうな歌だと怖い方向に行っちゃうか。っていうかね、



「恥ずかしいから無理ですよ」
「なんで敬語? いや、さっき普通に歌ってたじゃねぇか」
「アレは違う。ノリなんだ」



そんなことを話していると、森からの出口が見えてきた。おお、やっと終わりか!!長かったなあ。「っしゃぁあ!! 終了ぉおお!!」と走って森から出る私。そして、ガッツポーズをする。あー、辛かった。いろいろと大変だった。森から出ると、学園長先生とヘムヘムだけ居た。学園長先生とヘムヘムは呑気にお茶を飲んでいる。「おお、やっと帰ってきよった」と、私達の存在に気づいた学園長先生。すると、学園長先生が首を傾げた。ヘムヘムも「ヘム?」となにやら不思議そうにしている。



「秋奈、琴音ちゃんはどうしたんじゃ?」



学園長先生の言葉に、「あ、えっと……」と私は少し俯く。できれば言いたくはないけれど……、学園長先生はそれを許してはくれないだろう。



「……琴音さんと一緒に出発した後、琴音さんに襲われかけました……」
「襲われかけた……?」
「あ、襲撃じゃなくて夜の方で……」



私の言葉に、学園長先生もヘムヘムも驚いた表情をする。そして私は、「そこで、竹谷と斉藤が助けてくれて……、その後琴音さんはどっかに行ってしまって、行方は分かりません」と続ける。ちゃんと話すと、学園長先生は考える素振りを見せる。



「……何故襲われたか、理由は分かるか?」
「琴音さんは土井先生のことが好きなので、私に気に入られれば土井先生が振り向いてくれるのではないか、と思ってるみたいです」
「それは、本人が言っておったのか?」
「あ、はい。以前襲われかけた時に」



正直に言うと、驚きすぎたのか竹谷が「はあっ!!? 前にも襲われかけたのか!!?」と言った。と言っても、その時は自力で逃げることはできたけど。頷く私に、「なんで言わなかったんだ」と、竹谷と斉藤に呆れる。でも、なかなか言えることじゃないのよ。学園長先生が「秋奈、」と静かに私の名前を呼ぶ。



「そのこと、土井先生にも……、」
「ッ言わないでください!! 土井先生には絶対に知られたくない!!」
「じゃが、それでは秋奈を守れん」
「これからは琴音さんと会わないように気をつけます!! だから、土井先生には……!!」



胸元の着物をぎゅっと握りしめ、そう訴える。命の恩人であり、兄のような存在の土井先生。土井先生に心配はかけたくない。負担は、かけられない。私の心情を察してくれたのか、学園長先生は静かに「……分かった」と言ってくれる。



「分かった。じゃが、その代わりに琴音ちゃんを学園から追い出す」
「え……」
「どうやら生徒達にも手を出しているらしいからの。文句は受け付けないぞ?」



その言葉に、私は「……はい」と弱々しく返事をした。その時、竹谷と斉藤が私のことを心配そうに見ていたのを私は知らない。




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -