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拝啓、兄上様。
誰にでも、好き嫌いはあると思うんです。食べ物しかり、人間しかり。私は今日、とある人物に出会いました。山田伝蔵先生の息子、山田利吉さんです。彼は美形さんでイケメンさんで、声も素敵です。でも……、性格は最悪でしたッ!!!!!! ここまで気が合わないのか、と心底思いました。何故か向こうが突っかかってきます。そして、それに反応してしまう私がいます。でも、挫けません。私には、土井先生ときり丸がいます。二人は、何があっても私の味方だと信じています。どうか、お元気で。
あなたの妹、秋奈より。




 ***




「秋奈ーっ!!」
「っ……!!?」



外をボーッと眺めていると、誰かが私の胸を鷲掴みにしてきた。言わずもがな、七松である。だが、着物越しで何回も触られている為、なんだか慣れてきてしまった。そりゃあ、いきなり触られたら驚くけれども。七松、やめなさい。私の胸を触っている七松の手を取り、ポイッと捨てる。七松は「えー!!?」と言っていたが、異論は認めない。というか、私が正しいのだよ。呆れていると、「こんなところで何をしていたんだ?」と聞かれた。何、って言われても……。



「ちょっとね、ボーッとしてた」
「悩み事か?」
「いやいや、そんなんじゃないよ。意味なんて無いんだ」
「ふーん…、秋奈は変わってるなあ」
「あー…、よく言われる、かも」



何気ない七松との会話。でも、このほのぼのとした雰囲気が結構好きだったりする。まるで、この時代が戦国時代だということを忘れさせてくれるようだ。……なんつって、私は一回も戦に出たことはないんだけど。



「そういえば、あの時はありがとう!!」
「え? あの時って?」
「私がちっこくなった時だ。秋奈が面倒を見てくれたな!」



これは驚いた。子供化した時のことを覚えているのか。私は「あはっ」と笑う。すると、七松は首を傾げて「どうした?」と聞いてきた。私は「いや、」と言って、「礼なら良いのに。私、子供大好きだし」と言葉を続ける。



「いーや、それでも礼は言わなくては!! じゃないと、私の気が済まん!!」
「ははっ、そっか。そういうところは、しっかりしてるんだねえ」



その時、タイミングよく誰かが私と七松の前に現れた。私は思わず「あ、」と声を出す。現れたのは、土井先生だった。土井先生は私の顔を見て「職員会議に行くぞ」と言った。職員会議……? いつも私行かないのに……?



「今回はいつもの職員会議と違うらしくてな、秋奈も呼んでこいと学園長先生に言われたんだ」
「へえ。七松、悪いけど行ってくる」
「ああ」



土井先生と肩を並べて歩きながら、少し笑って七松に手を振る。七松は私の行動に嬉しそうに笑って、ブンブン!、と勢いよく手を振ってくれた。ちょいちょい、腕が取れるよ。七松のことだから大丈夫だろうけど。




 ***




学園長先生の庵に行くと、先生方が全員勢揃いしていた。その中には、事務員である吉野先生達もいる。何故か、琴音さんまでも。琴音さんと目が合い、ニッコリ微笑まれた。襲われかけたこともあって、私は引き攣った笑みしかできなかった。私と土井先生が座ったのを確認すると、学園長先生は口を開いた。



「――…一週間後、肝試しをする!!」
「「「「えぇぇぇえええぇえ!!!?」」」」



学園長先生のいつもの思いつきに、先生方は驚いて声をあげる。私は驚きながらも「ほほう」と呟く。肝試しか。それは大層面白そうな話じゃないか。どうせ生徒達だけでやるんだろう。だから、お手伝いさんである私は肝試しに参加することはない。怖がりでヘタレな私にとっては好都合。



「肝試しをするのは上級生。と、秋奈と琴音ちゃん」
「は……?」
「あら、私も……」



え、待って待って待って。聞いてないよ。どういうこと。あ、やば、混乱してきた。え、生徒達だけじゃないの!? なんでソコで私と琴音さんまで含まれるわけ!!?



「秋奈、大丈夫か? なんだか顔が青いぞ?」
「い、いや……、はは……」



土井先生が私の顔を心配そうに覗き込む。だが、私は今はそれどころではなく、何を言ったらいいか分からなかった。学園長曰く、肝試しを行う理由は「上級生の幽霊さえも恐がらぬ勇ましい姿を見れば、きっと下級生にもやる気が出よう」ということらしい。だからって、なんで肝試し!!? 別に肝試し以外でも良かったでしょう!!?



「詳しくは、その時に話す」



「以上!!」と言って、話を切り上げた学園長。その瞬間、先生方はシュバッと忍者らしく消えた。凄いな、忍者。それにしても、なんで私まで……。……早くも不安になってきた。




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