47


「おばちゃーん、洗い終わったー」



洗っい終わった野菜を籠の中に入れ、食堂のおばちゃんの元に持っていく。おばちゃんは包丁で魚をさばいていた。私の言葉に包丁の手を止めて私に顔を向け、「ああ、ありがとう」とお礼を言ってくれる。続いて「そこに置いておいて」と言われた為、おばちゃんに言われたところに野菜の入った籠を置く。すると、おばちゃんは「本当ありがとうね」と優しく微笑んで言った。



「他に手伝えることある?」
「んー、今日は簡単なものだから、あとは私一人でできるし……、無いわね」
「そっか。じゃあ、また手伝ってほしいことがあったら言ってね」
「ええ、本当にありがとう」



おばちゃんの笑顔に見送られながら、私は食堂を出た。さーって、どうするかな。今はみんなまだ授業中だよな。これから何をするか考えているうちに、長屋の縁側まで来てしまった。こうなったら、面倒くさいけど秀作の手伝いでもするか。いや、事務の仕事だから、吉野先生の手伝いになるのか。秀作は失敗ばかりだし。



「そばにいる♪ 例えどんなに悲しい夢だとしても構わない♪」



訳もなくスキップをしながら歌を口ずさむ。ふと、庭の方から視線を感じた。スキップと歌うのをやめ、そちらに目を向ける。



「…………」



なんか、物凄い怪しい人がいる……!! しかも、めっちゃ見られてる……!! 不審者の姿は明らかに不審者のようだった。身長や体つきからして、恐らく男。男は忍の黒装束に身を包み、グラサンをかけていた。え、ちょ、何なんですかコレ。どういう状況なんですかコレ。私は素早く二丁拳銃を手にして、銃口を男へと向ける。すると、男は警戒をしたのか、クナイを構えた。



「……何者だ……?」



低い声が、その男から発せられた。私は「そのセリフ私が言いたいよ!!」とツッコもうとしたが、やめる。ギャグをやっている場合じゃない。「あなたこそ、何者ですか?」と足をガクガクブルブルしながら言うけれど、それは自分でも驚くほど凛としていた。でも、あれれ? 足と声が似つかないぞ? んん?



「答える義理は無い!!」



男がクナイを投げてきた。私はそれを横に回転して避ける。クナイは私の後ろの壁へ、トスッ、と刺さった。みんなが授業をやっている中で、銃で撃つわけにはいかない。音で、みんなが騒いでしまう。私は銃にロックをかけ、逆手に持つ。これなら、きっと何とかなる。



「なかなか、やるようだな」
「……どうも」



なんて答えたら良いのか分からず、素っ気なく言ってしまった。ヤバイ、余裕に見られてしまっただろうか。男は、タッ、と地を蹴って私との距離を一気に詰める。私はそのことに驚きながらも、逆手で持っている銃を構える。男の顔が間近に来る。
――…その時だ。



「くぉらぁぁぁあああああ!!!!!」



山田先生の怒声が聞こえた。それにより、私も男も固まってしまう。二人して山田先生の声をした方へ顔を向ける。そこには、何故か呆れた顔の山田先生が私達を見ていた。



「二人とも、何してんの?」



溜息をつかれ、そう聞かれた。え?え?何してるって言われても……。「あ、怪しい人がいたので……」と小さく言うと、それを聞き取った男が「は……?怪しいのはそっちじゃないかと言った。山田先生は、何故か苦笑している。



「利吉、その格好では間者と間違われても仕方ないぞ」
「……あ、すみません。任務帰りだったもので」



……今、なんと? 「利吉」とおっしゃいませんでした……? 利吉っていったら、山田先生の息子じゃっ……!! 男がグラサンを取って、覆面も取る。そこには、イケメンがいた。私は驚いて固まる。



「秋奈ちゃん、驚かせてすまんな。コイツは私の息子の利吉だ」
「山田利吉です」



いきなりの出来事に困惑して固まっていると、「……こちらも名乗ったのだから、そちらも名乗るのが筋では?」と言われてしまった。山田先生はすかさず「こら、利吉!!」と叱る。



「ご、ごめんなさい……。天道秋奈といいます……」



なんか……、え、利吉さんが何故か私にツンツンしてるんですが。これはツンデレなんですか? いや、そんな馬鹿な。私、もしかして嫌われた……?



「秋奈ちゃんは17歳だ。利吉は18歳だから、ひとつ違いだな」
「ふーん、こんなちんちくりんが……?」



利吉さんの方が背が高い為、見下ろされる私。なんかムカついてきた。例えイケメンであろうと、私はお前を許さないぃぃい!!



「大体、なんで17歳なのに結婚してないんだ? できなかったのか?」
「まあ、残念ながら縁がありませんで」
「確かに、こんな小娘を娶りたいという人はなかなか居なさそうだな」
「余計なお世話です。そういう貴方はどうなんですか?」
「私か? 私は今、仕事に忙しい」
「それはつまり、お相手がいないんですね?」
「……減らず口を」
「……フン、お互い様」



どうやら、私と利吉さんは相性が悪いようです。横で苦笑している山田先生、ごめんなさい。




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -