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土井先生と山田先生の部屋で、土井先生の着物やらなんやらを畳む。今日はおばちゃんが洗濯の存在を忘れていて、土井先生のものだけ時間が間に合わなくて畳めなかった為、私が引き受けた。おばちゃんは既に昼食の準備に取り掛かっている。
ふと、気づいた。
朝起きればマスクが新しいマスクになってるけど、アレは何故だろうか。それに、携帯の電源は切れないし。むしろ減ってないし。



「…………」



この謎は、自分では解き明かされない気がする。考えたって無駄、かな。自分で納得し、再び土井先生の着物やらなんやらを畳み始める。よし、これでラスト。畳み終わった全てを、土井先生の机の上に置く。



「秋奈!! 秋奈はどこだぁぁあ!!?」



大きな声が聞こえた。私は少し溜息をついて、土井先生と山田先生の部屋を出る。「どうかした?」と、私は声の主である潮江に声をかける。潮江は私の顔を確認すると、ビューンッ!!、と此方に走ってきた。正に風のようで驚いた。



「秋奈、話がある!! ギンギーン!!」
「話? ……って、ちょ、ええええええ!!?」



何故か担がれて拉致されました。




 ***




「……で、何ですかね、この状況」



連れてこられたのは庭。そこには、私を連れてきた潮江を除く六年生全員が揃っていた。が、一人だけおかしい。明らかにおかしい。



「見て分からんか? ――…小平太が小さくなってしまったのだ」



中在家の膝の上で満面の笑みを浮かべる七松。しかし、その姿は今までの姿ではなく、小さい子供のようだ。これはアレですか。幼児化っていうやつですか。潮江曰く、「どういう経緯でこうなったのかは知らん」らしい。しかし、このままの七松では授業に出すことは出来ないらしい。まあ、そうだろうなあ。



「歳は5歳。俺達と会う前の記憶だから、俺達のことも知らない」
「そこで、暇人な秋奈に頼もうかと」
「誰が暇人だコラ」



潮江の説明に「ふむふむ」と聞いていると、立花が失礼なことを言ってきやがった。確かに暇人だけどな。ちゃんと手伝いはしてるけれど。話をしていると、七松がトコトコと私のもとに歩いてきた。そして、私にぎゅっと抱きついてきた。「あはは、早くも懐かれちゃったね」と善法寺が笑みを浮かべる。



「ちょ、これ、私に拒否権無いんじゃない?」
「最初から拒否権など無い」
「なん、だと……!?」



絶句していると、着物の裾をクイクイと引っ張られた。まあ、誰か、なんて分かり切っている。私はしゃがみ、小さい七松に首を傾げ「どうしたの?」と聞く。小さい七松はニッと笑顔を浮かべる。



「わたしは七松小平太!! おねーちゃんの名前は、天道秋奈?」
「お、正解! え、何で知ってるの?」
「教えた」
「ああ、なるほど」



それなら納得だ。そう思いつつ、目の前にいる小さい七松の頭を撫でる。



「じゃ、俺達授業あるから」
「これから実習なんだよね」
「……と、いうことで、」
「小平太のことは、」
「お前に任せた」
「「「さらば」」」



は? 決めゼリフとポーズを決めて颯爽と行ってしまった立花達。私はいきなりのことで唖然としてしまう。あ、アイツ等ァァァアアア!!!!!



「秋奈、バレーは好きか?」
「え? 程々に好きだよ」
「じゃあ、バレーしよう!!」



その言葉に、私は一瞬固まる。七松とバレーしたら死ぬ。だが、今の七松は5歳児。そんな驚異的な力は無いだろう。「うん、やろっか」と頷き、七松と手を繋いでバレーボールを取りに足を動かした。




 ***




「行くよー」
「うん!!」



七松にバレーボールを投げる。七松はうきうきしながら「とうっ!!」と言って、レシーブで私に返す。お、やっぱり5歳児だとあまり力が出ていないな。返ってきたボールに、私もレシーブで返す。
何回か打ち合った。でも、私の腕がバレーボールに届かず、私の目の前でバレーボールが地面に落ちてしまった。しかし、「わたしとこんなに打ち合えるのは秋奈がはじめてだ!!」と目を輝かせ、私にそう言った小さい七松。いやいやいや、それは貴方が小さいから……。出来る人なら20回以上は行くと思うんだけど。ここでも私の運動音痴が出ますか、チクショウ。




 ***





あれから、またバレーを再開したり、穴を掘ったりして一緒に遊んだ。ふと空を見れば茜色。もう既に夕方になっていたのだ。小さい七松は眠くなったようで、うとうとしている。「寝る?」と聞くと、首を横に振り「もっとあそぶ」と返事が返ってくるが、小さい七松は今すぐにでも寝そうな勢いだ。



「起きてからまた遊べば良いから、一緒に寝よう?」
「……むう……」



遊び足りないようで、小さい七松は眉間に皺を寄せて口を尖らせている。私は苦笑し、小さい七松を抱っこする。そして、縁側に座り、体を縁側の柱に預ける。ポンポン、と背中をリズムよく優しく叩く。



「ぐー、ぐー……」



しばらくすると、寝息が聞こえた。顔をそっと見てみると、目を閉じて少し涎を垂らしながら寝ていた。その姿に、私は思わず笑みを零す。この子があの暴君と言われている七松とは思えない。



「――…可愛いなあ」



(秋奈ー…、お? by.留三郎)
(……二人とも、寝ている……。 by.長次)
(こんなところで寝るとは、無防備な……。 by.文次郎)
(うわー! 二人とも凄く癒されるんだけど……!! by.伊作)
(やはり秋奈に任せたのは間違いではなかったな。 by.仙蔵)




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