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「じゃ、じゃあ、秋奈ちゃんを追いかけてた人って……、」
「……琴音さん」



私の言葉に、善法寺と不破は唖然とする。しかし、鉢屋はゲラゲラと笑った。笑いごとじゃないのよ。私は必死だったんだから。不破が「まさか、天女様が女の子にまで手を出すなんて……」と呟く。あっはは、ほんとだよねー。吃驚仰天だよ、はははー。……あ? 天女様?



「天女様って、琴音さんのこと?」
「うん。空から現れた綺麗な女人だから、天女様。知らなかったの?」



なんだそれ。



「知らなかったよ!! え、ちょ、待って。なんで私は”天女様”じゃないの!?」
「お前、自分の顔よく見てみろ? 顔からしても性格からしても”天女様”なんて呼べる存在じゃないだろ」
「死ね鉢屋」



確かに私はブスだから天女様の器に見えないけど。他人に言われると、こんなにもグサッとくるんだな……。うん、平凡バンザイ。私は一生平凡に生きていくんだ。この状況が平凡じゃないことには触れないぞ。



「僕は天女様より秋奈ちゃんのほうが好きだなあ」



ニコニコしながら、そう言う不破。思わずときめいたのは言うまでもない。



「見た目だったら断然天女様だけどな。で、秋奈、その縄解かなくて良いのか?」
「さり気なく失礼なこと言ったのに対してはスルーしてやんよ。善法寺、お願いできる?」



鉢屋に鋭いツッコミを入れ、近くにいる善法寺に助けを求める。善法寺は苦笑しながら、私の縄を器用に解いてくれた。「ちょっと赤くなっちゃってるね……」と眉を下げる善法寺に「そのうち治るから大丈夫。ありがとう」とお礼を言う。善法寺は「ううん、困ったときはお互い様だよ」と言ってくれた。善法寺マジ良い子。どのくらい良い子っていうと、マジ良い子。



「でも、なんで天女様は秋奈ちゃんを襲ったんだろう……?」
「あー…、それな。なんか、土井先生を振り向かせる為らしいよ」
「そういえば、あの天女、土井先生のこと好きらしいな」



鉢屋の言葉に、不破も善法寺も「そういうことか」と納得する。しかし、また新たな疑問が出たのか「でも、それと秋奈ちゃん、どういう関係が?」と善法寺が聞いてきた。



「私に気に入られれば土井先生が振り向いてくれるかも、って本人が言ってた」
「……だからって、なんで襲う方向に行くんだよ……」
「確かに……」



呆れ果てる鉢屋に、苦笑する不破。しかし、善法寺はなんだか真面目な顔をしている。「善法寺……?」と声をかけると、ハッ、としたように私を見た。



「――…秋奈ちゃん、これからは天女様にあまり近付かないほうが良い」



善法寺の言葉に、私は「Watt……?」と目をパチパチさせる。善法寺は付け加えて「襲うなんて大胆なことをする人だ。きっと、これからもまだ秋奈ちゃんを襲ってくるかもしれない」と言う。そうなのかな……。



「本当にそうなるかは分からないよ。でも、用心はしておいたほうが良いと思う」
「そ、そっか……。うん、分かった」



忍たまとはいえ、六年生である善法寺の言葉だ。これは、本当に用心すべきなのだろう。ならば、私はそれに従おう。初体験が女同士で、しかも利用されるっていうのは嫌だしね。



「もし襲われたら叫んでね! すぐに助けに行くから!」



善法寺の言葉を聞いて心配になったのか、不破がそう言ってくれた。そのことが嬉しくて、私は「そん時は頼んだ!!」と不破の手を握る。不破は自信満々に「任せて!!」と大きく頷いた。



「じゃ、私はそろそろ行こうかな」
「まだ此処に居たほうが良いんじゃないか?」
「うん、そうだよ。まだ天女様がうろついてるかもしれないし」
「や、でも、迷惑かかるし……」



きっと今頃、秀作は仕事で失敗している。吉野先生が頑張っているだろうけど、一人ではキツいだろう。私が手伝わなければ、秀作が次々と失敗を……。うおおおおお、吉野先生頑張ってぇぇえ!!



「秋奈ちゃん、今は大人しく。ね?」



ふと、手首を掴まれる。それを辿ると、善法寺の手だということが分かった。善法寺は、首を傾げて微笑み、私の様子を伺っていた。その姿は、男でありながらも可愛らしい。何故女に生まれてこなかったのか悔む程に。……大人しくしてます。




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