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「心配かけて、すみませんでした!!」



上級生達を前にして、頭をバッと下げるきり丸。上級生達は無事であるきり丸を見て、ホッとした表情を見せたり満面の笑みを見せたりしている。



「さ、秋奈ちゃんも土井先生も心配してることだし、早く帰ろっか」
「……あの二人、怒ってますかね……?」
「秋奈は怒るっていうより、泣きそうだったぞ」
「土井先生は、表情がよく分からなかったな」



上級生達の言葉に、きり丸は複雑そうな顔をする。きっと、忍術学園に帰ってからのことを不安がっているのだろう。きり丸は、泣いている秋奈と怒っている土井先生を想像する。……なんとも真逆な反応だろうか。



「………」



でも、自分の頬が自然と緩むのを感じるきり丸。戦で家族を失くしたきり丸は、家族を覚えていない。だから、何をやったって心配されることはなかった。……けど、今は違う。天道秋奈という義理の姉と、土井半助という義理の兄兼父がいる。きり丸は、秋奈と半助の顔を思い出しながら、早く帰りたい衝動に駆られた。




 ***




二時間くらい経った。でも、まだ皆は帰ってこない。他の生徒や先生達が夕食を食べたりしている中、私と土井先生は門の所でずっときり丸達の帰りを待っている。「遅い……」と呟き私の肩を、土井先生が抱き寄せる。土井先生の匂いと温もりを感じ、少し安心する。でも、まだ完全に不安は拭い切れなかった。ふと、何処からか複数の話し声が聞こえた。



「まさか……、」
「ああ、きっとそうだろう」



フッと微笑む土井先生。その表情を見て、私は満面の笑みになる。心なしか、きり丸の楽しげな声も聞こえてきた。無事だったんだねっ……。私と土井先生は、慌てて門の外に出る。



「――あ、秋奈姉!! 土井先生!!」



私達の存在に気づいたきり丸が、私と土井先生の名前を呼ぶ。そして、だーっと走ってくる。きり丸はそのまま私へと抱きついてきた。私も、きり丸を受け止めて抱き返す。目からは、自然と涙が出てきた。「無事で良かったっ!!」と泣きながら言うと、きり丸は笑顔で「えへへ、ごめんなさい」と謝った。こっちは本気で泣いてるのに、きり丸は何故か笑っている。こっちは心底心配していたのに、何笑ってるの。そう思っていると、土井先生がきり丸の頭を殴った。それにより、きり丸が「いってぇー!!」と声をあげる。



「馬鹿かお前は!! 勝手にあんな怪しいバイトに行って私達を心配させて!!」
「え、土井先生怒ってますぅ……?」
「当たり前だぁぁああ!!!!」
「ひ、ひえぇ……!!!」



鬼ごっこを始めてしまった土井先生ときり丸。追いかける土井先生の姿は、正に鬼のようだ。私は、その姿を眺めつつ、着物の袖で涙を拭く。ああ、良かった。きり丸はどこも怪我をしていない。それどころか、今でも楽しそうに体を動かしている。



「ほんと、良かった……」



鬼ごっこをしている土井先生ときり丸に苦笑しつつ、私はそう呟いた。そんな時、「秋奈姉、助けてー!!」と言いながら鬼ごっこをしていたきり丸が走ってきて、私の後ろへと隠れる。続いて土井先生も私の元に来るが、私の後ろにいるきり丸へと鬼の形相で視線を向ける。



「秋奈を使うとはなんと卑怯な!!」
「べー、っだ!!」
「きり丸ぅぅううう!!!」
「まあまあ、土井先生」



きり丸があっかんべーをすれば、土井先生が更に怒る。きり丸のその姿は可愛いのだけれど、土井先生を刺激しないほうが良いのでは。私は呆れながらも笑う。



「秋奈!! きり丸を差し出せ!!」
「そのへんにしときなよ、土井先生。きり丸だってお腹空いてるだろうし」
「そうだそうだ!!」
「黙れきり丸!! だいたい秋奈はきり丸を甘やかしすぎだ!!」
「えー? そう?」
「そうだ!! この前だって今月のお小遣いをあげたらしいじゃないか!! きり丸はバイトしてるんだからお小遣いをあげなくて良いんじゃないか!?」
「うーん……、きり丸が可愛すぎて……」
「お金は大事!!」
「可愛いとかそういう問題じゃない!!」
「あ、なに? 土井先生もお小遣い欲しいの?」
「ああ……、最近ほんと金がなくてな……、って違ぁぁああああう!!!」



父のように怒る土井先生。母のように苦笑する私。二人の子どものように私に隠れるきり丸。後に聞いたが、その姿は本物の親子の様だったらしい…――




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