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「それでね、土井先生ったらちくわを見た瞬間青ざめちゃって」



散歩をしていたら、琴音さんに会った。琴音さんは着物を着ていて、その姿も綺麗なものだ。縁側に座り、一緒に話すことになった。どうやら琴音さんは土井先生のことが好きみたいだ。先程から土井先生の話ばかりをしている。



「秋奈ちゃんは、土井先生と随分仲良しよね」
「えへへ、そう思います?」
「ええ、羨ましいわ」



琴音さんの着物は少しはだけている。胸の谷間が少し見えてしまっているのだ。だから、あまり琴音さんの方を見れない。女同士とはいえど、少し目のやり場に困る。変に緊張していると、「土井先生の好みのタイプって知ってる?」と聞かれた。好みのタイプ……。



「んー…、そういう話はしたことないんですよね……」
「そうなの……。残念ね、秋奈ちゃんなら知ってると思ったのに」
「すみません、お役にたてなくて……」



苦笑すると、琴音さんが「いいのよ」と言った。そして、一息をついて「じゃあ、私少し用があるから」と立ち上がる琴音さん。「はい」と返事をすると、「またね」と言って行ってしまった。私は琴音さんの後ろ姿を眺めながら、これからどうしようか考えた。




 ***




「あ、おかえりー」



秀作が居る門へと向かうと、五年生達が帰ってきていた。私は声をかける。すると、五年生達は声を揃えて「ただいま」と言った。意気ピッタリだな、と思っていると「お団子買ってきたよ」とお団子がいくつか入った風呂敷を尾浜に手渡された。私はそれを受け取りつつ「ありがとう」とお礼を述べた。



「団子10本ね」
「え、そんなに買ってきてくれたの!?」
「うん。どのくらい食べるか分からなかったから多めに」



なんだか申し訳ないな。でも、お金を払おうとすれば受け取ってくれなさそうだし……。



「えっと……、それじゃ皆で食べない? 私一人じゃ食べきれないし」



私の言葉に、皆が目をパチパチとさせる。「あ、もちろん秀作も」と言うと、秀作が「良いの!?」と喜んだ。皆で庭に座って、それぞれお団子を一本ずつ食べる。私は、マスクを取らずに顎の方にずらしてお団子を食べる。私の隣には秀作がいて、幸せそうに団子を頬張っている。「美味しそうに食べてるなあ」と思いつつ、秀作を見る。と、私の視線に気づいた秀作が私を見る。



「えへへ、美味しいねっ」
「そうだねぇ」



天使のような笑顔に、自然と頬が緩むのを感じた。16歳とは思えない素直さだ。このくらいの歳の子はプチ反抗期だったりするだろうに。



「秋奈姉ぇー!!」
「せんぱぁーい!!」
「小松田さぁー、いでっ……!」
「「あ、しんベヱが転んだ」」



のんびり食べていると、きり丸、乱太郎、しんベヱの三人が此方に走ってきた。しかし、しんベヱが転んでしまった。「あーらら」と呟く私。きり丸と乱太郎がしんベヱを起こし、再びこちらに走ってきた。



「秋奈姉!!」
「先輩方!!」
「そして小松田さん!!」
「「「聞きたいことがあるんです!!」」」



私達の前に来てそう言う三人。しんベヱは団子に目が行くと、目を輝かせて涎を垂らした。その姿に私達は苦笑する。あ、そうだ。まだ3本、団子が残ってたはずだ。「団子1本ずつあげるから、とりあえず座りな?」と言う。けれど、



「ちぇー。俺が秋奈に買ってきたのにー」
「え、あ……、ごめ、駄目だった……!?」
「ふふ、嘘嘘。素直な秋奈は可愛いなー」
「んだよ、からかっただけかよ」



尾浜の厚意を無駄にしてしまったのではないかと焦るものの、どうやら違うらしい。側に座ったきり丸、乱太郎、しんベヱに1本ずつ団子を渡す。三人とも、貰う際にはお礼を言ってくれた。うんうん、可愛いねぇ。「で、聞きたいことって?」と鉢屋が本題に入る。すると、乱太郎が口を開いた。



「昨日の夜、厠に行こうと思ったら、野村雄三先生の部屋から変な会話が聞こえて……。野村先生と如月琴音さんの会話で、聞きづらかったんですけど、息が荒かったんです」
「息が荒かった……?」
「なんというか、”あん”とか”良い”とか言ってました」



「きり丸としんベヱに聞いても分からなかったので、ちょうど見かけた秋奈さん達に声をかけたんです」と話終わる乱太郎。尾浜と鉢屋は何故か遠い目をしている。どうしたんだろうか。



「それって、もしかして……、」
「夜の営み、ってやつじゃない……?」



鉢屋と尾浜の言葉に、竹谷、不破、久々知が「はあっ!!?」と声を揃えて言い、私は思わず「げほっげほっ」とむせる。そんな私を気遣い、秀作が「大丈夫!!?」と背中を擦ってくれた。だいぶ収まってきたところで、「ありがとう」と秀作に礼を言う。



「……あの人、ビッチだったのか……」



私はそう呟く。だが、きり丸、乱太郎、しんベヱは結局分からなかったようで、首を傾げている。秀作はほんのり顔が赤いので、意味が分かるのだろう。五年生メンバーは意味が分かっているようだが、尾浜と鉢屋は平然としている。他の三人は顔を赤くしているようだ。



「結局どういうこと……?」
「お前達はまだ知っちゃ駄目だ!!」
「今すぐに忘れて!!」
「……? はーい!」
「せ、先輩達が言うなら忘れます……」



乱太郎としんベヱは、渋々ではあったが返事をした。しかし、きり丸は「なーんか怪しい……」と私達を疑っている。そこで、私はきり丸に今月のお小遣いを渡していなかったことを思い出す。懐から銭を何枚か出し、そっときり丸の手に乗せる。



「きり丸も、今月のお小遣いあげるから忘れなさい」
「お小遣い!!? あひゃひゃひゃ、忘れまぁーっす!!!」
「おお!! 義理とはいえ、さすがは姉!!」



そのままきり丸、乱太郎、しんベヱは何処かへ行ってしまった。取り残された私、秀作、五年生メンバー。あの話の後の為、なんだか気まずい。



「そういえば、秋奈ってまだ処女なのか?」
「ぶふぉ!!?」



鉢屋のいきなりの言葉に、私は赤面して動揺してしまう。鉢屋と尾浜以外の皆も、鉢屋を見て赤面している。尾浜は呑気に「みんな純情だねぇー」と言った。お前が不健全なんだよ!! 鉢屋もだけどな!! 動揺していると「で、どうなんだ?」とニヤニヤしながら私に聞いてくる鉢屋。自然と、皆の視線が私に行っていることに気づいてしまった。



「死ね!! 今死ね!! すぐ死ね!!」
「あーららー? 処女なんだー?」
「うあああああ!!! もう何も言わないでお願いだからぁぁぁあ!!!」



バッ!!、と自分の顔を両手で隠して俯く私。「あっはは、楽しーいっ」などと言いながら笑う鉢屋。殴りたい。ものすんごい殴りたい。でも、まずはこの状況をどうにかしたい。




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