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「では、琴音ちゃんのことは土井先生に任せても良いかのう?」
「あ、はい。分かりました」



土井先生が琴音さんに、「では、行きましょうか」と声をかける。琴音さんは笑みを浮かべ、「はい」と答えた。そして、二人で肩を並べて歩いて行ってしまう。……この羽織、似合ってたかな。どうせなら土井先生に感想言ってもらいたかったな……。ふと、土井先生が振り返って私を見た。え、なに。



「――秋奈、その羽織よく似合ってるぞ!! さすが私の妹だ!!」



優しく微笑んで言ってくれた土井先生。思わず「え……」と声を漏らしてしまった。そして、そのまま前を向いて琴音さんと歩いて行ってしまった。私は驚いてしまい、その場で固まる。まさか褒めてくれるだなんて思わなかった……、しかも、わざわざ振り返って大声で……。



「良かったじゃないか、土井先生に褒めてもらえて」



ニヤニヤしながら私に近寄る立花。立花のほうが背が高い為、私は見下ろされる。私は興奮したまま立花を見上げ、「何今のときめいた!!」と言う。しかし、立花は溜め息をついた。



「お前、何故私にはときめかない?」
「は? お前自意識過剰なの?」
「…………」



ハッ、と鼻で笑う私。その瞬間、立花に無言で睨まれた。さすがに怖かった為「……ゴメンナサイ」と謝る。美人さんは怒るとマジ怖い。ふと、「な、なあ、秋奈、」と名前を呼ばれ、食満に顔を向ける。……食満は、なんだか頬を少し赤く染めていた。しかも、言いづらそうにしている。食満の姿を見た潮江が、「え、なにアイツきもっ!!」と引いている。お前等キャラ崩壊大丈夫か。



「俺のこと、”お兄ちゃん”って呼んでくれねぇか……!?」
「……は……?」



この言葉には、その場に居た全員が引いた。あの中在家ですら、「え? なに言ってんのアイツ」的な顔をしている。食満はそんなことお構いなしに「頼む!!」と両手を合わせて言う。



「ただ俺の裾をちょっと掴んで笑いながら”お兄ちゃん”って言ってくれるだけで良いんだ!!!」
「言葉だけじゃないの!!?」



動揺していると、立花が「やってやったらどうだ?」と言ってきた。立花を見上げると、立花は私を面白そうに見ていた。立花、自分じゃないからって私で遊びやがって……。ムスッとしていると立花に背中を押された。もうこれは腹を括るしかないか。「一回だけだからね」と言い、一息つく。女・天道秋奈、参ります……!! 食満の裾をきゅっと掴む。食満の方が身長が高い為、私は食満を見上げる。笑顔ではないが、かわりに少し首を傾げる。



「――…お兄ちゃん」



そう言った瞬間、食満の目がカッと大きく開いた。そして、ガシッと肩を掴まれる。え、なに、怖い。



「秋奈、これから俺のことはそう呼んでくれ」
「絶対嫌だよ!!」
「大丈夫だ! お前の見た目は13歳程だから問題ない!!」
「お前私を愚弄したな!!?」



駄目だ。きっと、今の食満に何を言っても通じない。立花に助けを求めようと、立花を見る。立花はいまだにニヤニヤしていた。おい、お前後で覚えてろよ。



「留、そのへんにしといてやれ。秋奈も仕事があるだろうからな」
「そ、そうそう!!」



うおおおお!! 神様仏様仙蔵様!! 見捨てると見せかけて私を助けてくださった!! 食満は残念そうに「そう、だな。秋奈、仕事頑張れよ」と言い、優しく頭を撫でてきた。なんだか凄く複雑だ。一応、私のほうが年上なんだケドな……。




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