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あの後、名前を知っている人以外の皆に自己紹介をしてもらった。私は既に学園長先生から紹介してもらっている為、自己紹介は必要なかった。でも、タメで良いことは伝えた。名前は多分全員覚えた。でも、不破雷蔵と鉢屋三郎の見分けがつかない。久々知曰く「雰囲気」で見分けれるらしい。



「変な雰囲気の奴が鉢屋、って覚えておけば分かるぞ」
「なにそれ全然分かんない」



眉間に皺を寄せて、不破と鉢屋の顔をじっくり見る。二人とも、同じようにニコニコ笑っている。……駄目だ。似すぎていて分からない。桜○高校ホ○ト部の双子のように、前髪が違ったりするなら見分けがつくのに。



「やだなあ、秋奈ってば。そんなに見つめられると照れる」
「ほざけ。……そうか、声でならどっちか分かる」



ありとあらゆるアニメを見続け、声優さん達の声を聞き分けることができるようになった私。コイツ等も良い声してるんだから、私なら絶対に聞き分けられる、はず。鉢屋が、「今ほざけって言った!!? 口悪っ!! 本当に女かよ!!?」と言っているのが聞こえる。フン、知るかボケ。……私どんどん口悪くなってくな。



「何を言うか鉢屋!! 秋奈は立派な女だぞ!!」
「……トゥンク……」
「胸がちゃんとあるだろう!!」
「そんなこったろうと思ったわ……」



胸があれば女、という思考回路なのだろうか。一瞬ときめいた私が馬鹿みたいじゃないか。む、むむむ胸だけが女じゃないのよ……!! 顔も体型も声も含まれるのよ……!! せ、性格はともかくとして……。



「俺も、秋奈はちゃんとした女の子だと思うよ」
「……尾浜、結婚しようか」
「あはは、寝言は寝て言ってね」
「え」



あわわわわわ、尾浜超怖ぇ……!! 周りの皆も固まってんじゃん。私も固まってんじゃん。優しい尾浜はどこへ行ってしまったの……。だが、尾浜は天然毒舌らしい。その証拠に、何故皆が固まっているのか分からず、きょとんとしている。



「え、なに? どうしたの?」
「い、いや、なんでもねぇ……!!」
「あっはは、尾浜ったらお茶目だなあ! 私は寝てないよ?」
「……? 知ってるけど……?」



ほ、本当に状況が分からないんだ……。天然毒舌がどれだけ恐いものか思い知ったわ。これからはなるべく気をつけよう。毒舌を吐かれないように。ガタガタブルブルと震えていると、斉藤がなにやら目を輝かせながら「ね、ねえ秋奈ちゃんっ」と声をかけてきた。その手には握り鋏。……あ、そういうことか。



「髪の毛、結っても良いかな……!?」
「んー、まあ、良いよ」
「やった!! ありがと!!」



心底嬉しそうに笑う斉藤。私は私を抱きしめている七松に「おどきなさい」と言うけれど、七松は「やだ」と言って動かない。やだって、ガキじゃないんだから……。



「あ、そのままでも大丈夫だよ!!」
「え?」



え、なんで? 髪の毛結うときって、普通後ろからでしょ……? 私が疑問に思っていると、斉藤がニコニコとしながら私の前に座った。そのことにぎょっとしつつ、「じっとしててね」と言われ、大人しくじっとすることに決める。斉藤の手が、私の髪の毛に触れる。次の瞬間、頭上からシュババババッという音が聞こえた。その音に「!!?」とびっくりしていると、



「できた!!」



と、斉藤が満足気に言った。周りの皆が「おお〜!!」と拍手を斉藤に送る。だが、私はまだ髪の毛を見ていない。すると、斉藤に「はい」と手鏡を渡された。私はそれを受け取って、自分の髪の毛を見る。



「どうどう?可愛いでしょっ」
「……み……、」
「み?」
「ミッ○ーじゃねぇかァァァアアア!!!」



ディ○ニーで売ってるミッ○ーのカチューシャあるじゃないですか。私の髪型、まるで、そのカチューシャを付けてるみたいなんですよ。どうやったの、この髪型。どうやったらこんな凄い髪型ができるの。



「……なんでこの髪型なの」
「秋奈ちゃん、そのマスクっていうやつ取ったらねずみに似てるって言われてるから!」
「……元に戻す」



私の言葉に、斉藤は口を尖らせながら「せっかく似合ってるのに」と言うけれど嬉しくない。眉間に皺を寄せ、ムスッとする。七松が私の頭を「よしよし」と撫でる。顔は見えないが、私の少し低くなった声で表情が気づいたのだろう。……なんかちょっと癒された。つか、私達はいつまで此処にいるんだ。




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