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「らんらんるーっ」と言いながら廊下をスキップしながら歩く。今日も和やかだ。ふと、前方から秀作が歩いてくるのが見えた。しかも、顎くらいまである書類の山を持ちながら。あらら、アレは絶対転ぶな。心配して見ていると、案の定、秀作は足をもつらせてしまい「えっ、うわあっ!!」と倒れそうになった。



――ドッスーン!!
「っつ……!!」
「っ……!!」



間一髪、秀作の倒れる先に走って秀作を支える。けれど、支えきれずに倒れてしまい、物凄く豪快な音がした。と同時に、左腕の肘が痛んだ。ズキズキする肘を我慢しながら、秀作に「無事?」と聞く。秀作は驚いた表情をしながら「う、うん」と頷いた。



「秋奈ちゃんは大丈夫!!?」
「うん、平気、問題ないよ」



そう言うと、へらっと笑う秀作。秀作が年下であるという意識もあってか、その姿が可愛く思えて仕方がない。とりあえず、この体制をどうにかしなければ。私達がとっている体制。それは、結構キツいものであった。転んだときに支えとしてついた肘。私の右手は秀作を支える為に、秀作の腰をガッチリホールド。秀作の手は私のお腹あたりにある。つまりコレは、私が秀作を誘っているかのような体制なのだ。だが、周りには散らばった書類がたくさん落ちている為、分かる人には分かる状況だろう。



「あ、ごめんね! 今退くから……!!」



慌てた様子で私から退く秀作。「そんなに慌てなくて良いのに」と苦笑しながら、私も立ち上がった。その際、左腕の肘に痛みが走った。これは後で医務室に行かなければ。とりあえず、散らばってしまった書類を拾う。全部拾ったところで、秀作に渡した。



「本当にごめんね、秋奈ちゃん」
「いいのいいの。秀作に怪我が無くて良かったよ」
「〜〜っ秋奈ちゃん大好き!!」
「ははは、私もだぜ」



目を輝かせて言う秀作。秀作が女の子だったら襲ってゲフンゲフン。気を取り直して「ほら、早く行かないと今日中に仕事終わらなくなっちゃうよ」と言う。秀作は慌てて書類を拾うと、「じゃあねー」と言って、歩き出した。私は「うん」と返事をして手を振る。
だが、



「――…あっ!!」
ドッスーン



秀作が再び転んでしまった。おいおい、マジかよ。そんなことを思いながらも、何故か笑いが込み上げてきてしまった。「あっははははっ!!」と盛大に笑う私に、秀作は恥ずかしそうに照れながら「わ、笑わないでよぉー!!」と言った。




 ***




「これで良し、と」
「ありがとう」
「ううん、私は保健委員だから」



秀作の書類運びを手伝った後、医務室へと来た。医務室には乱太郎しか居なかった為、乱太郎に事情を説明して手当てをしてもらった。保健委員だけあって、乱太郎は手際が良かった。



「それにしても、結構腫れてたね」
「そうだね。土井先生ときり丸にバレたらなんて言われるか……」
「あっはは……あの二人、秋奈さんのこと大好きだからね……」



苦笑する私と乱太郎。すると、乱太郎「あ」と言い、「秋奈さんの家族ってどんな人達なの?」と聞いてきた。乱太郎の言葉に、私は固まってしまう。……家族……。乱太郎の問いに、答えれるはずもなかった。思い出すのは、あの辛かった日々。そして、お兄ちゃんの無理矢理作った笑顔。「秋奈さん?」と顔を覗き込まれ、「あ、いや、なんでもない」と慌てて言う。



「家族、ね。今は、土井先生ときり丸だけだよ」
「……そう、なんだ……」
「手当てありがとね。私、仕事あるから行かなきゃ」



そう言って立ち上がる。「あ、うん……」と曖昧な返事をする乱太郎。私は、その返事を聞きながら医務室を出た。……廊下を、俯きながら早歩きで歩く。いらない。血の繋がった家族……、そんなの、お兄ちゃんだけで良い。お兄ちゃんがいて、土井先生がいて、きり丸がいる。私は、そんな家族が良い。



「――…親の愛情なんて、反吐が出る」




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