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忍術学園に来て、何日か経った。暇さえあれば、先生方や事務員さんの手伝いをしている私。しかし、学園長先生に会うのをすっかり忘れていた。調度見かけたヘムヘムに、学園長先生の庵へと案内をしてもらった。学園長先生は、私が正直に「会うのを忘れていた」と言うと豪快に笑っていた良い人だ。



「では、私はこれで失礼しますね」
「うむ、また来ると良い!」
「はい、ありがとうございます!」



学園長先生の庵を出る。さーて、これからどうしようかな。あ、そういえば、秀作が「今日は仕事たくさんあるんだよね……、はあ……」と言っていた気がする。よし、秀作の手伝いをしようかな。




 ***




秀作に、庭の掃除をしてほしい、と言われた。私は当然それを了承した。そして今、庭でほうきを持って掃除をしている。周りに人がいないのを確認し、誰かに聞かれていたらどうしよう、と思いつつも口を開く。



「アナタガ望ムノナラバ♪ 犬ノヤウニ従順ニ♪ 紐ニ縄ニ鎖ニ、縛ラレテアゲマセウ♪ アルイハ子猫ノヤウニ♪ 愛クルシクアナタヲ♪ 指デ足デ唇デ、喜バセテアゲマセウ♪」



微かに風が吹く。まるで、一緒に歌うように鳥達が鳴く。ほうきで落ち葉を掃くと、シャッシャッ、という音がする。それが、今はなんだか心地良い。のんびり歌っていると、いよいよサビまで来た。
色は匂へど♪ 散りぬるを♪ 我が世誰ぞ常ならん♪ 知りたいの、もっともっと深くまで♪ 有為の奥山、今日越えて♪ 浅き夢見じ酔ひもせず♪ 染まりましょう♪ アナタの色ハニホヘトチリヌルヲ♪
久しぶりに、この歌を歌った。音程や歌詞が少し不安だ。ちょっと色っぽく歌ってみた。だから、周りに人がいなくて良かった。これで隠れている誰かに聞かれていたら本当に恥ずかしいな……。



「――なら、犬にでもなってもらおうか?」



背後から聞こえた、その声。私は驚いてビクッと反応してしまった。誰もいないと思っていたのに。まさか、よりによってコイツに聞かれてしまうなんて。振り向き、「た、立花……」と呟く。最悪だ。このドS野郎に聞かれてしまうなんて。コイツ、絶対ネタにしてくる。



「犬のように、紐に、縄に、鎖に、縛られてくれるのだろう?」



ニヤリ、と妖しく微笑む立花。私は思わず青ざめる。一瞬でも、その鎖などに繋がれている自分の姿を想像してしまった。ああ、なんてことだろうか。私は、すかさず訂正する。



「い、今のは歌詞で……!! 決して私がそう望んでいるのではなく……!!」
「だが、口に出して言っていた」



いまだニヤリと微笑んでいる立花。そんな立花が、一歩一歩近づいてくる。私はそれが怖くて、一歩一歩後ろに下がる。だが、ついに背中にトンッと木が当たってしまった。その瞬間、立花の両手が私の顔に触れる。目の前には微笑む立花。……完全に逃げ道を失ってしまった。



「逃げ道がなくなってしまったな」
「か、完全にお前のせいだろ……!!」
「チュウチュウ鳴くな、ねずみ」
「おま、とことん失礼な奴め!! 私はねずみじゃない!!」
「ねずみだろう」
「違うってば! ……つか、退いてよ」



「嫌だ」と言う立花。ああ、もう嫌だ。ただでさえ、この状況でも恥ずかしいのに。ふと、仙蔵が優しげな表情でフッと微笑んだ。そして、私の顔から手を退けて、私から少し距離を取った。



「天道はからかい甲斐があるな」
「……立花は七松より危険人物だね」
「フッ、褒め言葉だ」


やだ、何この人うざい。




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