19


そんなこんなで、もう夜だ。昼食や夕食を食べている時、物凄い視線が痛かったこと以外は問題なかった。で、これからが問題である。私は風呂に入りたい。でも、風呂の場所も道も分からなかった。とりあえず、きり丸、乱太郎、しんベヱが風呂に行ってしまったので、私は三人の部屋で待機だ。



「秋奈ちゃん、よね?」



障子が開かれ、綺麗な女の人に声をかけられた。私は「は、はい……」と見惚れつつも頷いた。美人さんは、私の言葉にニコッと綺麗に微笑み、「初めまして。くの一教室の担任、山本シナよ。宜しくね」と言った。そうか、この人が山本シナ先生なのか。「此方こそ宜しくお願いします」と言って頭を下げる。軽く頭を下げる。すると、シナ先生は「さて、」と声に出した。



「まだお風呂入ってないでしょう? 一緒にどう?」



シナ先生の言葉に、私はきょとんとする。お風呂……? 一緒に……?



「行きます!! 行かせてください!!」
「ふふ、じゃあ早速行きましょうか」
「はい!!」




 ***




「ふいー……」
「ふふ、まるでおじさんね」



裸になり、マスクも取って、風呂に入る。風呂が想像以上に気持ち良くて、変な声を出してしまった。すかさず、シナ先生にツッコまれる。……自然と、私の目線がシナ先生の胸元へと行ってしまう。「先生、胸大きいですね」と思わず口に出してしまいながらも、ジーッと見る。Eはあるであろう、その胸の大きさ。私のBとは全く違う膨らみだ。自分の胸を見て、シナ先生の胸を見ると自分の胸が貧相だということが分かる。



「私は秋奈ちゃんの胸の方が良かったわ。私はくのいちだもの。確かにお色気を必要だけど、胸が大きいと肩が凝るのよね……」
「私は、シナ先生の胸の方が良いです。女としての魅力もあるし」



私の言葉に、シナ先生は苦笑しながら「そうかしら?」と言った。私は性格がただであえ男っぽいから、好きな人がいたとしても恋愛対象として見られるか分からない。胸が大きければ多少何かが変わると思うんだけど……。



「そうやって悩むだけでも、充分女らしいと思うわよ」
「そう、ですか……?」
「ええ」



「だから、不安にならなくても良いの」と、お湯で濡れた手で私の頭を撫でてくれるシナ先生。その姿は妖艶で綺麗で……、私は顔を赤くしてしまった。やっぱりシナ先生は綺麗だ。ジッとしていても綺麗なんだから、さぞモテるだろう。



「なんか、ごめんなさい。相談みたいな感じになっちゃって」
「良いのよ。女同士だから話せることもあるもの」
「ふへへ、ありがとうございます」



シナ先生は「どういたしまして」と返事をした後、「そろそろ出ましょうか」と提案してきた。結構温まったので、その言葉に頷く。




 ***




シナ先生とはくの一専用の風呂場で別れた。道はちゃんと覚えたし、迷惑をかけるわけにもいかなかったのだ。シナ先生は教師だから、これから仕事もあるかもしれないし。きり丸達の部屋に向かいつつ、手拭いで濡れている髪の毛を拭く。暗くなっている空を見上げると、星や月がくっきりと綺麗に光を放っていた。平成では見られなくなった綺麗な光。それを見て、私は自然と頬が緩むのを感じた。
ここに来て、”死にたい”などという気持ちはどこかへ行ってしまった。確かに最初はつらかった。何が正しくて、何が正しくないのか分からなかった。でも、今はそれすらも慣れ、自分なりに楽しくやっている。だんだん、私の気持ちが良い方へと変わって行く。それほど、トリップしたことは私にとって良いこととなった。



「お! 天道じゃないか!」



う、この声は……。振り向きたくない気持ちを抑えつつ、ゆっくりと振り向いた。そこには、声の主である七松がいた。彼も風呂あがりなのか、髪の毛が濡れている。それに、寝間着が着崩れている。風呂上がりのせいか「おお、なんかエロいな!!」と言いながらニカッと笑みを浮かべ私の前まで近づいてきた七松。私はその言葉に呆れてしまった。



「七松、髪の毛濡れてるし寝間着が崩れてる」
「ん? 私は気にしないぞ?」
「それで風邪引いたらどうすんの」
「風邪は引かんぞ! そんなに弱くないからな!」
「あー、”馬鹿は風邪を引かない”というやつですね、分かります」



とりあえず、七松が首から下げている手拭いを手に取る。七松は私が何をしたいか分からないようだ。まあ、それもそうか。「ほら、そこ座れ」とそう言って指さしたのは縁側。七松はきょとんとした。だが、すぐに私の言うとおり、縁側に座ってくれた。私は、七松の手拭いを七松の濡れた頭へと被せる。更に、その上に両手を乗せる。そして…――、



「っうおおお!!?」



七松の髪の毛を乾かすべく、頭をわしゃわしゃと豪快に拭いた。当然、七松はいきなりのことに驚き、「どうしたんだ!!?」と聞いてきた。まだ分かっていないのか。呆れながら「塗れたままだと風邪引いちゃうから、私が拭いてあげてるの」と説明すると、「なるほど」と納得した。



「ははっ、人に拭かれるのは悪くないな!」
「これっきりだからね」
「なんだ、今日だけか」



「気持ち良いから毎日やってほしかったんだがなー」なんて言っている七松。私はその言葉を「はいはい」と言って受け流した。



「あれ、秋奈ちゃん?」



その時、同じく風呂上がりであろう善法寺が来た。「善法寺」と名前を呼ぶと、善法寺は私の前にいる七松に視線を向けて「小平太もいるんだ」と笑みを浮かべて言った。……あらま、善法寺もちゃんと髪の毛拭いてないじゃん。



「善法寺、髪の毛拭くから七松の隣に座って」



私の言葉に善法寺は「このままでも良いよ」と言う。けれど私が「早く」と一言言うと、苦笑しながらも七松の隣に座った。それを見て、私は善法寺の髪の毛を善法寺が持っていた手拭いでわしゃわしゃと拭く。



「なあ天道、名前で呼んでも良いか?」



その時、七松が唐突にそんなことを聞いてきた。「良いよ」と七松に返事をすると、善法寺が「あ……、僕、許可も取らずに名前で……」と申し訳なさそうに言った。



「ああ、良いのに。善法寺は良い子だからね」
「私も良い子だぞ?」
「ふはははは、いきなり人の胸を触る奴は良い子じゃないぞぉー」



その後もしばらく、こんな風な穏やかな時間が続いた。




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