09


翌日
「い、いらっしゃいませー!!」



バイト初日。私は朝、きり丸に大きな声の出し方と接客の仕方を教わった。そして今、初バイトで緊張しながらも頑張っている。時々声が裏返り、その度に弥生さんに笑われるけれど、私はなんとかやっていけていると思う。と、その時、「あのー」と声を掛けられた。「はい、なんでしょうか?」と振り返りながら声の主を見ると、そこには可愛い若い女性がいた。



「着物を買いたいんですけど、似合うか分からなくて……」



そう言って苦笑するお姉さん。このお姉さんなら何でも似合いそうな気がするけれど……。「分かりました。えーと、そうですねぇ……、」と返事をしながら、店に並べられている着物を見て行く。目の前にいるほわほわした感じのお姉さん。動物で例えるなら、うさぎだろうか。このお姉さんにはピンクと白が似合う。何か良い柄の着物は無いだろうか。……あ。目で探っていると、ピンクを基準とした白いコスモスの柄の着物を見つけた。



「お姉さん、これなんてどうでしょう?」



着物を手に取って、お姉さんに見せる。お姉さんは「可愛い……!!」と呟くが、すぐに悲しげな表情で「でも、こんなに可愛い着物、似合うかどうか……」と言う。そんな、御謙遜を。私はニコッと笑みを浮かべ「お姉さん可愛いから絶対似合いますよ」と言う。私の言葉に、お姉さんは頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯いた。なんだ、このお姉さん。お持ち帰りしたいくらいに可愛いんだけど。



「じゃ、じゃあ、その着物、買っちゃおうかな……」



ニコ、と控えめに微笑むお姉さん。その笑顔が可愛いのなんの。私は「ありがとうございますっ」と言って、バッ、と頭を下げて上げる。その後、お金を払ってもらった。私は着物を綺麗に畳んでお姉さんに渡す。すると、お姉さんが「あの、」と話し掛けてきた。



「――…次来たときも、お願いできますか……?」



恥ずかしそうに、私の顔を伺いながら聞くお姉さん。さっきから思ってたけれど、この人は私より人見知りが激しいようだ。でも、私とは違って可愛いから、その小動物な姿にキュンキュンする。



「――…はいっ! いつでもお気軽にどうぞ!!」



お姉さんの期待に答えるように、私は満面の笑みで元気よく言った。すると、お姉さんは安心したようで「ありがとう」と言って帰って行った。私は、そのお姉さんの後姿を見送りつつ、達成感に浸った。




 ***




「今日の営業は終了、っと」という弥生さんの言葉を聞き、空を見る。気づけば夕方になっていた。バイトは確かに大変だけど、弥生さんが優しいおかげで楽しかった。「いやー、初日にしては上出来よ」と笑いながら言う弥生さんに「お役にたてて光栄です」と返事をする。



「はい、これ今日の給料。お疲れ様!!」



弥生さんから銭を何枚か貰った。これが、どのくらいの価値か分からない。でも、土井先生ときり丸の負担を和らげることができるだろうか。自然と、頬が緩むのを感じた。



「秋奈ちゃんが来てくれたおかげで、お客さんが増えたわ!! 明日も頼むわね」



頭を撫でられ、優しく微笑まれた。ああ、やっぱり弥生さん美しい。「はい、勿論です!!」と笑顔で返事をすると、弥生さんが私の頭を撫でた。その後、弥生さんと少し喋った後、我が家への道のりを歩いた。帰って給料を見せたら、土井先生もきり丸も喜んでくれた。二人の笑顔が嬉しくて、私も笑った。




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