Act.42

夏菜と話す幸村君は、今でも嬉しそうに笑っている。他に好きな人がいると知ってしまったのに。昼間の泣きそうな幸村君の顔を思い出すと、ああやって2人で話すところを見るのは複雑だ。
……私がどうこうできる問題ではないけどさ。



「……人生うまいこといかないもんだなあ」



なんて呟いたって、状況は変わりはしないか。



「御剣さん、これから何かやりますか?」



小さく溜息をついた時、声をかけられた。意外にも、私に声をかけてきたのは観月君。夏菜が話していたのは見たことあるけど、私が話すのは初めてだ。
えっと、今はみんな素振りをしてから走り込みで、竜崎先生からは”やることないから休んどけ”って言われてるし……。



「ううん、無いよ。なに?」
「スコア表をまとめたデータを作ろうと思いまして」



「一緒に来ていただけますか?」と言われ、私は竜崎先生を見た。当分声をかけられることもなさそうだし、大丈夫かな。「うん」と頷くと、観月君が「行きましょう」と言って歩き出した為、私もスコア表の束を持って歩き出した。



 ***



着いた先は、夏菜達がドリンク作りなどで利用している部屋だった。今夏菜は居ないが、桜乃ちゃんや朋ちゃん達、財前君や日吉君達はいるようだ。休憩時間なのだろうか、それぞれ話したりくつろいだりしている。



「あっ希代さんっ! えっえっ、どうしたんですか!?」



私の存在に気づいた朋ちゃんが、駆け寄って私の腕に自分の腕を巻き付けた。それによって、桜乃ちゃん、杏ちゃん、友香里ちゃんも私のところに来てくれる。満面の笑みで私を見上げる朋ちゃんの表情は、可愛くて可愛くて仕方がない。「えへへー」とデレデレな表情をあらわにしてしまっていると、隣から溜息が聞こえた。



「御剣さん、デレデレしない。小坂田さん、彼女は私とやることがあるんです」



そう言う観月君。朋ちゃんはきょとんとしながらも、「へー」と言った。そして、私の腕から離れる。あっ、名残惜しい……。



「ごめんねー、終わってから話そ」
「絶対ですよ?」
「うん、もちろん」



朋ちゃんと約束をし、先にパソコンを起動している観月君のもとに向かう。適当に椅子を見つけて、観月君の隣に座り、スコア表の束を机の上に置く。はー、ここってクーラー効いてて涼しい。外とは全然違う。……あ、汗くさくないと良いけど、大丈夫かな……。



「ねえ、私汗くさい?」
「急に何を聞くんですか……」



うん、ごめん、確かにその通りなんだけど。
「ちょっと気になっちゃって」と言いながら腕の匂いを嗅ぐ。でも、自分じゃ分からない。観月君は私の匂いを少し嗅ぐと、ポケットから何かを取り出した。



「これを使うと良いでしょう」



汗拭きシート、ローズの香り。
そう書かれたパッケージの袋を差し出された。え、それって臭いってこと? ちょっとショックを受けながらも、「ありがとう」とお礼を言って、汗拭きシートを受け取る。袋の中から1枚取り出し、早速腕から吹き始めた、が……。



「え、臭っ! 何これ臭っ!」
「文句を言わない!」
「あ、はい」



観月君はなんというか、ちょっとお母さん感があるかな? でもこれ薔薇の匂いきついよ。
ちなみに、私を呼んだ理由は、観月君が言う選手のスコアを束の中から探す為らしい。スコアをつけている私であれば、どれが誰のデータなのか大体把握しているだろう、ということだった。まあ確かに。それにしても、休憩時間を削ってこれをやるなんて、観月君って熱心なんだなあ。



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