「まったく、仁王はいつもいつもそうだよね」
夏菜です。
「仁王の調子が悪いから、そっちで休ませても良い?」と希代から電話を受けて、数分。希代は少し仁王と話をしてから再び外に戻って行ったが、入れ替わるように幸村君が来た。
それで、今は幸村君が仁王に説教中。
少し顔色が良くなったとはいえ、まだ体調を崩している仁王は、説教によって心なしかメンタルが更にやられているような気がする。
「柳生がいつも言ってくれてるのに、」
説教中の幸村君が余程怖いのか、桜乃ちゃん、朋ちゃん、杏ちゃん、友香里ちゃんは4人で固まって震えている。原因は仁王なんだけど、さすがに可哀相かな……。
「ゆ、幸村君、そろそろ戻らないと怒られない?」
話しかけるのには勇気がいったけど、なんとかして幸村君を戻さないと。あたしの言葉に、幸村君は話をやめて時計を見た。そして、「それもそうだね」と言う。意外とすんなり戻ってくれそうな雰囲気に、とりあえずはホッと安心する。
「じゃあ、戻るよ。みんな、迷惑かけてごめんね」
いつもの優しい笑顔でそう言った幸村君は、部屋のドアに向かって歩き出した。よ、よーし、上手くいった。最後にあたしに手を振り、部屋を出ていく幸村君の姿を見届け、仁王に視線を向ける。俯いた顔は、髪の毛によって表情を見ることができない。……だ、大丈夫かな……。
「……城阪」
わっ、びっくりした。なんとか「ん?」と普通に返事をする。
「御剣、怒っとった」
……希代が?
あたしにすらあまり怒ったことがないのに、仁王に怒るなんて珍しい。希代のことだから心配して怒ったんだろうなって察しはつくけど。
仁王の言葉に、あたしだけではなく、桜乃ちゃん達も気になったのか、仁王に顔を向けた。興味津々なあたし達の表情には気づかず、仁王は顔を上げてあたしを見る。
あまりにも弱々しい表情に、一瞬時間が止まった気がした。
「……俺のこと、嫌いになったと思うか?」
なっ……、何その質問ー!?
桜乃ちゃん達も「えっ、もしかして?」「仁王さんってつまり?」ってざわついちゃってるよー!
「嫌われたくなか……」
ねえ! それって友達として!? それとも別の意味!?
真相が気になって仕方ないけど、仁王のことだ、はぐらかされるに決まってる。たとえ風邪でダウンしている状態だとしても、抜け目ないのは変わらないだろう。……でも、もしかしたら聞けちゃうかもっていう思いもあるけど。どっちかなあ。
「大丈夫大丈夫、希代はそんなことで嫌わないよ」
とりあえずフォロー。といっても事実だから、心配することなんて本当に無いんだけど。
あたしの言葉に、仁王は安心したように笑みを浮かべた。何その顔、今まで見たことないんだけど。仁王ってそういう爽やかな顔もできるの? ごめん、クールぶってる女たらしだと思ってたよ。
「まあ、とにかく今は寝ておきなよ。早く治さないと、また幸村君に言われるし」
あたしの言葉が効いたのか、仁王は「ん」とすんなり瞼を閉じた。すぐに「すーすー」と寝息が聞こえてきた為、今まで眠気を我慢していたのかもしれない。とにかく、これで一安心。
その後、あたしと桜乃ちゃん達は、希代と仁王のことで盛り上がった。
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