Act.37

希代にあたしの好きな人を打ち明けてしまった。
いつか話そうとは思っていたから結果オーライなのかもしれないけど、自分の好きな人の名前を言うのは、やっぱり恥ずかしい。
希代は言葉では「へえ、そうなんだ」とあっさりしていたけど、顔を見れば分かる。あれは動揺しまくりの表情だった。今まで恋愛話をあまりしてこなかったから、驚いちゃったんだろうなあ。


そういえば、幸村君のことは違うって言ってたけど……。希代って、好きな人いるのかな?




 ***




「ふーん、テニスってフランス貴族の遊戯で定着したのかー」



滝君に貸してもらっているテニスに関する本を読みながら、そう言う。隣に居る滝君は「実はそうなんだよねー」と言いながら、スコア表に追記をペンで書き込んでいる。
テニスは、元はエジプトの宗教的な行為のひとつだったようだ。それから16世紀頃のフランス貴族の遊戯となり、テニスは、ジュ・ド・ポーム、という名で呼ばれていたらしい。攻守交代の際にサーブをする人が「トゥネス!」と言ったことから、何故か巡り巡って「テニス」と呼ばれるようになったようだ。どうしてそうなった。
ちなみに”トゥネス”の訳は、”取ってみろ”という意味らしい。



「まあ、それはテニス経験者でも知らない人のほうが多いだろうけど。宗教や貴族の遊戯が、現代だとスポーツになってるって、結構面白いよね」



確かに。意外なことが起源になってるんだなあ。
パタン、と本を閉じて試合をしている選手達を見る。今現在は跡部君と千歳君が戦っているのだが、「破滅への輪舞曲!」とか「無我の境地」とか、技を繰り広げているのを見ていると……、



「でも、やるのはいいや」



と思ってしまう。どうあがいても、あれに着いて行けない。
私の言葉に、滝君は「だろうね」と笑いながら言った。滝君は中学の時にテニスをやっていたらしいけど、彼も予想外な技を出していたんだろうか。全然イメージつかないけど。



「ゲームセットアンドマッチ、ウォンバイ跡部景吾!」



その時、審判である手塚君が言った。試合を終えた跡部君と千歳君は、お互いに握手を交わし、こちらへと歩いてきた。いつものように「お疲れ様です」と言いながら、タオルとドリンクを跡部君と千歳君に手渡す。



「ところで御剣、」
「ん?」



ふらふらーっとどこかへ行ってしまう千歳君を視界に入れつつ、声をかけてきた跡部君に視線を向ける。汗をかいているはずなのに爽やかな跡部君は、タオルで首の汗を拭きながら私を見下ろした。今更ながら跡部君身長高いなー。



「明智光秀、何故好きなんだ?」



……ん?



「え、なんでって、え?」
「前に言ってたろ」



そりゃ言ったけど、今それ聞く? っていうか聞くの遅くない?
唖然とする私と、私をじっと見ている跡部君。異様な光景のせいか、傍らで滝君が笑いを堪えている。滝君なにがそんなに面白いの? 私と跡部君の組み合わせは滝君にとってギャグになっちゃうの?



「あー、えっと、長宗我部元親って知ってる?」
「アーン? 知ってるが?」
「その人と明智光秀って、実は友人だったっていう説があるんだよ」



光秀は信長の命で、長宗我部と織田を和解させる為に動いてたんだけど……。あと一歩のところで、信長が元親の領地を攻める計画を立て始めたんだ。それに怒った光秀が、信長を討ったんだって。まあ、一説にすぎないんだけど、義理堅い人だったみたい。



「あと、光秀は一人しか奥さんを持たなかったんだけど、」



その奥さんってね、結婚前に病で顔に痕が残っちゃったんだよ。それでも光秀は気にせず、奥さんを娶って、生涯奥さんだけを愛したらしいんだよね。



「だから私、明智光秀が一番好き」



そう言うと、跡部君と一緒に話を聞いていた滝君が「へえ、そういう人だったんだね」と、少し驚きの表情を浮かべながら言う。跡部君はいつの間にか、手で顔を覆っていた。どうしたんだろう……。



「すまん、俺は明智光秀を誤解していた」
「まあ、授業受ける限りじゃ裏切り者の情報だけだもんね」



ちゃんと知ろうとしないと、ただの歴史上の人物ってだけで終わっちゃうもの。知らなくたって仕方がない。それに、これが本当なのかどうかも、あやふやだし。
跡部君は私の肩に手を置くと、再び「すまん」と謝った。私は苦笑して「そんな謝らなくても」と言った。



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