Act.32

「あれからすっかり好かれてしまったの、葵に」
「仁王のせいだぞ」
「言ったのはお前じゃき」
「流れに乗ったくせに」



鍋の中の乾燥わかめが元に戻るのを確認しつつ、キッと仁王を睨みつける。しかし効果が無いのか、仁王は「なんも怖くない」と言いながら笑みを浮かべる。くそォ……。
葵君を罵ってからというもの、葵君によく話しかけられるようになった。彼はM気質なのだろうか。今も、学校事に昼食を作っている最中だというのに、葵君の視線がハンパなく私の体に突き刺さる。



「何がそんなに気に入ったのか分からん」
「希望があればどんな女でもええんじゃろ」
「んな誰でも良いみたいな言い方……」
「アイツはそういう男ぜよ」



……まあ、否定は出来ない。
仁王がお椀を用意するのを見て、お玉で鍋の中をぐるぐると少しかき混ぜる。全ての乾燥わかめが元のわかめに戻ると、見ていたのか「味見するぜぃ!」と丸井が嬉しそうに寄ってきた。味見しかしないな、こいつ。なんて思いながらも、仁王が用意してくれたお椀に、お玉一杯分のわかめスープを入れ、丸井に渡す。受け取った丸井は、熱いにも関わらず飲みほした。



「んんーっ! うまっ!」



ってことは、わかめスープの味はこれで良いと。



「もう一杯味見する!」
「だーめ。次は昼食のおかわりで」
「ちぇー」



じゃないと味見し続けちゃう。
丸井から受け取った使用済みのお椀に、お椀一杯分のわかめスープを入れる。「どこ座る?」と丸井に聞くと、「どこでもー」と返事が返ってきた為、適当に一番近くの席に置いておいた。
次々にお椀にわかめスープを入れ、とりあえず近くに置いていくと、仁王が置いておいたお椀を一人ずつ分けて席に置いていってくれた。いつもは意地悪なのに、さり気ない優しさだ。何もせず見ているだけの丸井は、こういうところを見習ったほうが良い。



「お肉焼けたよー」



夏菜の声に、彼女の隣で肉を焼いていた真田君を見る。味付けされたお肉が、一人分ずつお皿に盛りつけられていく。私と夏菜の分であろう量は、少し多めだが、まあ普通の量といえるだろう。しかし……、



「……多くない?」



他の人達の分が、異常に多い。まるで大食い大会に出るような食べ物の見た目だ。



「待て待て真田、それは多いぜよ」
「何を言っているのだ。食べねば筋肉もつかん」



流石に食べきれないと思ったのか、仁王が言うものの、真田君にバッサリと切り捨てられる。そこで、「真田君、仁王君は元々あまり食べない人ですから」と柳生君が助け船を出した。へえ、そうなんだ。そういえば、昨日もあまり食べていなかったような。



「仁王が残した分、俺が食べる! それなら勿体なくねえだろぃ?」
「……はあ、仕方ない。全く、お前等は仁王に甘いな」



呆れた表情を見せる真田君。仁王君はホッとした様子で、「サンキュ」と丸井や柳生君にお礼を言った。真田君もなんだかんだ仁王に甘い気がする。
今日の昼食である白米、焼き肉のタレで味付けされた焼肉、わかめスープが全員分用意出来た。それぞれ好きな席につき、手を合わせて「いただきます」と言って食べ始める。特に丸井の勢いが凄い。余程お腹が空いていたのだろうか。



「希代、葵君が見てるけど放置して良いの?」
「……夏菜、気づかないフリしてて」



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