Act.31

鳳君の、場所交換、は良い提案だったらしい。元々俊敏な菊丸君が後ろに居れば、鳳君が球を逃してしまったとしても、菊丸君が取ってくれる。菊丸君のスタミナ面が心配されたものの、それも杞憂だったようで、最初よりも菊丸君と鳳君のコンビネーションが良くなっているのは素人の私でも分かった。
対して桃城君と葵君は、焦りからなのかコンビネーションが悪くなってしまっている。意思疎通が出来ていないのだ。二人共視野が広いものの、それを補う分の柔軟性が足りていない。



「どっちが勝つと思う?」



ふと、仁王がいる方とは反対の隣から、そう声をかけられた。隣にはいつの間にか、青学の乾君の姿があった。彼は私と視線が交わると、眼鏡をクイッと上げる。
どっちが勝つか……。うーん、どっちかな……。
仁王は乾君が来たことに驚いたのか、「なんじゃ、珍しいの」と乾君に言った。彼の言葉に、「ふふ、話してみたくてね」と怪しげに笑みを浮かべながら返事をする乾君に、私も仁王もゾッとしてしまった。な、何をする気だ……。



「えっとー……、今は菊丸君と鳳君ペアが優勢なんだよね」
「ああ。けど、最初はその逆だった」



そう、最初は桃城君と葵君の方が優勢だった。でも、鳳君の機転によって立場が逆転した。……だけど、その逆転の発想による優勢は、どのくらい持つのだろうか。桃城君を見て見ると、彼は追い込まれながらも楽しそうに笑みを浮かべている。葵君が苦い顔をしている時も、桃城君なりに励ましていた。



「……桃城君って、ちょっと余裕ありそうだね」



ふいに出た言葉だったが、乾君は「へえ、そう見えるか?」と笑みを浮かべた。
そう思ったのは、なんとなく、だった。人間って、追い込まれると葵君みたいに笑顔が消えて、余裕が無くなってしまうものだ。だけど桃城君は、笑っている。それってつまり、余裕がある、ということに繋がるのではないだろうか。だって桃城君って、ゲームで真剣な時は、笑顔を浮かべていなかった。



「どうやら桃城は、打開策を探っているようだな」



打開策?



「戦いながら、相手にどう勝つかを探している。氷帝の忍足曰く、”曲者”らしいからな、アイツは。どうやら試合中に成長していくタイプのようでね、逆転勝ちがよくあるんだ」



へえ、そうなんだ。
「菊丸と鳳君を見てごらん」と乾君に言われ、言われた通り菊丸君と鳳君ペアに視線を向ける。……二人の連携が、僅かに乱れているように見えた。え、なんで? 今まで順調だったのに。「どういうこと?」と乾君に聞くと、彼は快く説明してくれた。



「桃城の粘りが威圧となって鳳君を動揺させ、それが菊丸にも伝わってしまっているんだ。要はプレッシャーだ。そして、そんな桃城を見て、葵君も力をつけてきている」



成程ね。風向きが変わってきたわけだ。じゃあ、このまま続けば、菊丸君と鳳君は……、



「ゲームセットアンドマッチ、ウォンバイ菊丸英二鳳長太郎ペア!」



あれ? 終わっちゃった?
乾君と話してどうなるか探っているうちに、試合が終わってしまった。あれれ?、と思っていると、仁王に「スコアスコア」と急かされ、慌てて今の試合のスコアをつける。もう少し試合の成り行きを見ていたかったのに。
ささっと試合の結果を書いて、四人分のタオルを用意する。「お疲れ様」と言いながらタオルを渡して行くと、試合を終えた桃城君達は「ありがとう」とお礼を言ってくれた。



「御剣さん! 俺を罵ってください!」



四人分のドリンクを取ろうとした時、葵君に大きな声でそう言われた。思わず「えっ?」と聞き返しながら、葵君を見る。桃城君が「何言ってんだお前……」と呆れているが、葵君は本気の様子。
戸惑いながら、助けを求めようと仁王を見ると、



「お前さん、こういうの得意じゃろ?」



とニヤリと笑みを浮かべて言われてしまった。助けどころか追撃じゃねえか!
あー、もう、どうしたら良いんだ……。キラキラとした目で私を見る葵君の姿を見ると、どうやら言わないと終わらないのだということが分かる。適当に罵って、終わらせてしまおう。顎に手を当てて、「そうだな……」と何を言おうか頭で言葉を探る。



「とりあえず……、」



と、眉間に皺を寄せ、睨むように葵君を見据える。葵君は言葉を待っているのか、ゴクン、と唾を飲み込んだ。



「空気汚れるから、喋るのやめてくれない?」



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