Act.28

「御剣先輩、見てくださいよこの筋肉!」
「あ、はい」
「冷たいッ」



ムキッと腕の筋肉を見せつける切原君。アホの子。「凄いねー」なんて拍手付きで言っても、棒読みが表に出てしまっている為「棒読み!」と切原君に言われてしまう。そうは言われても、いきなり筋肉を見せつけられてどう反応したら良いんだ。恥じらえば良いのか、それとも褒めちぎれば良いのか。試しに「キャーッ、かっこいーっ!」と言っても、既に嘘だと分かってしまっている為、ジト目で見られてしまった。どうしろと。



「もー! 先輩ほんと女子力足りない!」
「今日のホラゲーT.P.やるんだっけ? 切原君交代無しでやってみようか」
「わー! 先輩ほんと女子力あるぅー!」



ちょろい。私の言葉に、青ざめた顔で言う切原君。そんなに嫌か。
その時、真田君が「赤也! 次お前だぞ!」と切原君に怒鳴った。どうやら切原君が泳ぐ順番が回ってきたらしく、切原君は「やべっ」と言い、慌ててプールへと走って行く。しかし、それすらも「走るんじゃない!」と真田君に叱られていて、切原君はシュンとした。可哀想だけど可愛い。
再びスコア集計用紙に視線を落とす。あー、どこまで書いたっけっかな。



「……T.P.ってのは、」



亜久津君が何か言った。聞き取れず、「ん?」と聞きながら顔を上げて亜久津君に視線を向ける。亜久津君の視線は泳いでいる選手達に向けられていて、私には向いていない。……もしかしたら、独り言だったのだろうか。



「T.P.ってのは、体験プレイのやつだろ?」



そう聞きながら、私に視線を向ける亜久津君。ん、あれ、独り言じゃないのか。



「知ってるの?」
「……まあな、それなりに。発売中止になったらしいがな」
「ああ、そうらしいね。期待してたのに残念」



そう、T.P.は体験版ホラーゲームなのだが、開発者の都合により、製品版で発売されなくなってしまったのだ。怖いと世界中で有名だから楽しみにしていたけど、物語の結末は誰も知ることが出来ない。
私も一度一人で体験版をやってみたのだが、怖すぎる上に体験版でのクリア方法が分からず、化け物に殺されて終わってしまった。



「亜久津君はやったことある?」
「……ある」
「あるの!? クリアできた!?」
「いいや」



ですよね。
一説によると特定の曲を化け物に聞かせることによってクリア出来るらしいが、まだやったことがない。あとクリア方法がなんのヒントも無い為、そのクリア方法が合っているかすらも怪しい。
「難しいんだよねー」と言いながら、スコア集計用紙にスコアを書いていく。えっと、あとは六角と比嘉の人達だけか。



「……そこ、間違ってる」
「? どこ?」



亜久津君に言われ、集計用紙を見るが、パッと見では分からない。素直に聞くと、亜久津君の人差し指が間違いの箇所を指した。30のところを、集計用紙では間違えて40と書いてしまっていた。あちゃー。消しゴムで消して、新たに30と書く。これで良し。……もしかしたら他の箇所も間違えているんじゃないか、と思うと不安になってきた。



「……亜久津君、」
「あ?」
「これ書き終わったら確認してもらって良い?」



私の言葉に、亜久津君は「……はあ?」と素っ頓狂な声を出した。



戻る 進む
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -