Act.27

「午後からは水泳だぜ、オメェ等!」



人差し指を天高く上げ、海パンを履いた跡部君が皆の前でそう言う。「フゥー!」「流石跡部!」と騒ぐ皆も現在は海パン姿。まさか午前に言った私の意見が午後に実際に行われるとは思わなかったな。



「皆はしゃいでるねー」
「この暑さだからねー」



夏菜の言葉に返事をし、「はー、暑い」と手でパタパタと風を扇ぐ。しかし生温い風がくるだけで、ちっとも涼しくならない。さて水泳の時での私の役割はなんだろうか、と先程竜崎先生に手渡された紙に視線を落とす。えっと、昨日のスコア付けの集計、か。集計っていってもどうやるんだ……? あ、でも書き方の説明載ってる。竜崎先生優しい。



「夏菜は何やんの?」
「タイマー。でもやることほぼ無いらしいから、多分ずっと暇かな」



へー。あんまやることないなら、なるべく涼んでたいよなー。私はどこで作業すれば良いのかなー、と辺りを見渡すと、ビーチ用のテーブルと椅子を見つけた。気遣いでパラソルと足だけプールがあり、跡部君の優しさが滲み出ていてほっこりする。だが、「御剣希代専用」と分かりやすく名前を書いた紙を置いておくのはやめてほしいな。恥ずかしい。



「早速始めるぜ! マネージャー、配置につけ!」



跡部君の言葉に、夏菜は「また後で」と言って歩いて行ってしまった。私は選手と直接関わるわけではない為、ゆっくりと出来る。とりあえず用意してもらったテーブルにスコア集計用紙とシャーペンを置き、椅子に座る。靴と靴下を脱いで足だけプールに足を入れると、生き返るような心地を感じた。



「……良いな、これ」



これ家にもあったら絶対夏快適だわ。これなら作業もはかどりそう。カチカチ、とシャープペンの芯を出しながら貰ったスコア集計用紙に目を通す。用紙は何枚かあって学校ごとに分けられているようだ。その学校ごとの中で一人一人、試合結果を書いていかなければいけないらしい。……、これ面倒なやつだ……。



ガタッ



やろう、と取り掛かろうとした時、テーブルくを挟んで向こうにある椅子が動いた。なんだ?、と思いつつも顔を上げると、そこには先程お世話になった”あくつ君”の姿が。彼は眉間に皺を寄せながら乱暴に椅子に座り、テーブルを支えに頬杖をついた。……あ、お礼言わないと。



「あのー、」
「ああ?」



っ、怖……。負けるな、私。



「さっき、ありがとう」
「……あ?」
「キャベツとお皿」
「……ああ」



……会話が続かないな。まあ、良いか、お礼言いたかっただけだし。気を取り直し、スコア用紙を見ながらスコア集計用紙に書き始める。まずは一番上にあった山吹から。亜久津仁はー、……亜久津、あくつ? へー、亜久津って書くのか、珍しいな。……ん? 亜久津君も選手なんだよね? なんで水着姿じゃないんだ?



「泳がないの?」



顔を上げて亜久津君に聞く。亜久津君は私をチラッと見ると、すぐに泳いでいる彼等に視線を向けながら「なんで俺が」と言った。いや、なんでって……。「選手じゃないの?」と聞くが、亜久津君は私の言葉を無視する。やべ、あんま聞くと嫌われるかも……。



「亜久津ー、居ないと思ったら女の子と仲良くおしゃべりなんて羨ましいじゃーん」



横から聞こえてきた声に、横を見ると明るい茶色頭が特徴の水着姿の男子が居た。亜久津君の友達だろうか。彼の言葉に、亜久津君は「仲良くねえよ」と冷たく言う。まあ、確かに仲が良いわけではないな。



「君、御剣希代ちゃんだよね? 俺、千石清純、よろしくね」
「はあ、どうも」



凄いな、私の名前知ってるんだ。感心していると、千石君は「ゲーム好きなんだって?」「オススメ教えて」と、私が返事をする間もなく一方的に話しかけてきた。尚も止まらず、隙を見せずに話しかけてくるものだからどうすれば良いのか分からない。とりあえず、トークが尽きないのは一種の才能だと心の中で褒めておこう。



「あれ? 希代ちゃん聞いてる?」
「うん、聞いてる聞いてる」



本当はほぼスルーしてるけど。ああ、もう、面倒だな。任された仕事あるのに、千石君が居たら出来そうもない。だからといって、邪険に扱うのも彼に申し訳ない。んー、どうしたものか……。



「千石、次お前が泳ぐ番だろ」
「え? あっ、本当だ。希代ちゃん、また後でねっ」



亜久津君の言葉に、千石君はそう言うと笑顔で私に手を振り、皆の元に戻って行った。……、亜久津君、もしかして助けてくれた……? ちらっと亜久津君を見るけれど、亜久津君はだるそうに目を閉じていた。あやふやなままだが、それが亜久津君の優しさなのかもしれない。いや、ツンデレ? どちらにせよ、再び集中出来ることに感謝。



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