Act.25

あれからあっという間に時間が過ぎ、もうすぐで11時30分になる。今日から昼食は自分達で作るわけだが、マネージャーは先に準備、場合により昼食作りを開始しなければいけない。時間だということで夏菜が迎えに来てくれ、竜崎先生に一声かけて調理室へと二人で向かった。



「先輩御指導お願いしゃーっす!」
「お前マジか」



調理室につき、一通り食材と道具を揃えた。ら、いきなり夏菜が上半身を直角90度曲げて言ってきた。明らかに私任せな発言に、思わず呆れながらそう言う。ちなみに、マネージャーがいない六角と比嘉は、マネージャーの人数が多い青学から数人人材を貰うようだ。えーっと、まずは……、



「夏菜、流石にお米ぐらいは炊けるよね?」
「うッス、やれます!」
「そのノリ続くの? 浦山君は夏菜がやらかさないか見てて」
「はいでヤンス〜!」



良い子だ。それにしても、お腹すきすぎて頭でも湧いたか、我が親友よ。
さて、私は一番難しいであろう味噌汁でも作るか。……そういえば味噌汁の具を考えてなかったな。適当に豆腐とわかめで良いかな、良いよね、文句は無いよね。早速鍋に水を入れ、クッキングヒーターの上に鍋を置いて火を点ける。次に包丁を利き手に持ち、豆腐を反対の手に持つ。



「せ、先輩っ! 手が切れちゃうでヤンスよ!」



突然浦山君にそう言われ、「えっ」と声に出しながら浦山君へと視線を向ける。……あ、豆腐を切ろうとしたから言われたのか。すぐに納得し、「やだなー、大丈夫だよ」と笑う。しかし、浦山君はいまだに青ざめながら「あわわ」と慌てている様子。……いや、あの、本当に大丈夫なんだけど……。こうなったら強行突破だな。



「よいしょ、と」
「あああああっ!」



問答無用で豆腐を切る。浦山君が声をあげたけど、それを無視し、ざるに切った豆腐を次々に入れる。そして切り終わった後、傷ひとつない掌を「じゃーん」と浦山君に見せると、「おおっ!」と目を輝かせた。可愛い反応だ。



「傷ひとつないなんて! プロでヤンス!」
「ははっ、それは流石に大袈裟だわ」



笑うと、炊飯器をセットした夏菜が「よしっ」と笑顔で言った。うんうん、順調に出来たみたいで良かった。ホッとしながらも、沸騰した鍋に豆腐を入れる。と、その時、調理室の外から騒がしい声が聞こえてきた。どうやら選手達が練習を終えて来たようだ。さーて、豆腐ハンバーグは皆にお任せするとして、キャベツとプチトマトとお皿を用意しなきゃな。



「希代、次何すれば良い?」
「豆腐ハンバーグ作って。一人二つね」
「はーい」



 ***



食料庫に行き、プチトマトを手に取る。キャベツキャベツー、と探していると、棚の上の方にかたまって置いてあるのが見えた。見ーっけ、と思いながら取ろうとするけれど、



「……たっけー……」



思った以上に高い位置に置いてあり、私の手がキャベツに届かない。「んーっ」と頑張って手を伸ばしたり、つま先立ちをしてみてもキャベツに触れることすら出来ない。……仕方ない、誰か呼んできて取ってもらおう。そう思い踵を返すと、



「っ、」
「チッ」



誰かにぶつかってしまった。尻餅つきそうなのを支えてもらい、なんとか転ばずに済んだ。「ごめんなさい」と慌てて謝り、ぶつかった相手から離れる。自分より背の高い相手を見上げ、ぎょっとする。あまりにも鋭い目つきに硬直し、もう一度「ごめんなさい……」と弱々しく謝る。



「……これか?」
「え? えっと……?」
「取りたいのはこれかって聞いてんだ」



白髪の同い年であろう男子は、私が取りたかったキャベツを取ってくれる。「あ、うん」と頷くと、その男子はキャベツを私に手渡す。それを受け取りながら、小さく「ありがとう」とお礼を言うと「……ああ」と返事が返ってきた。……見た目は不良そのものって感じだけど……、中身はツンデレ……?



「他に取りたいのはあるか」
「いや、無いけど……、あ、お皿持っていかないとって思ってて……」
「……皿か」



男子は小さく言うと、お皿の方へ足を動かした。男子を放置したまま皆のところに戻るわけにもいかない為、私はキャベツとプチトマトを両手に持ちながら男子の後ろを歩く。しかし、男子の歩くスピードが速い為か、私は小走りになってしまう。足長いって罪ね。



「何人分だ?」
「えっとー…、11、かな」



私の言葉に、一枚一枚数えながらお皿を11人分取ってくれる。言い方とか見た目とかはキツいのに、行動が優しい人だなあ。なんて思いながら見ていると、バチッと目が合い「なんだよ」と聞かれる。「ううん」と慌てて首を横に振ると、男子は無言で視線を逸らす。



「……立海の連中は、女のお前にこんな雑用させてんのか」
「え、まさか。私が気づいたから勝手に――」
「――あ、御剣いたー」
「ったく、探したぜぃ」



……私の言葉が仁王と丸井によって遮られた。二人は呑気に「亜久津もいんじゃん」「珍しいのう」と会話をしながら此方に歩み寄ってくる。へえ、この人は”あくつ”っていうのか。



「……お前等の皿だ、自分達の持て」
「ん? おお、悪いな」



”あくつ”君はそう言うと、丸井にお皿を手渡すと、無言でどこかに行ってしまった。そんな後ろ姿を見ながら、「ツンデレ……?」と呟く私。そんな時、手に持っているキャベツとプチトマトが仁王に取り上げられる。



「持っちゃる」
「ん、ありがと」



あ……、”あくつ”君にお皿のことでお礼言ってなかったな。次会った時にちゃんと言おう。



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