Act.24

30分間完走の後の休憩が終わり、次のトレーニングに移った。選手達は二手に分かれ、一方は練習試合、一方は筋トレをすることになる。私は筋トレを見る方になり、滝君は練習試合でスコア付けだ。その筋トレは竜崎先生の指導の元行われている。竜崎先生は選手達をよく見ていて、一人一人に的確な指示を出している。素人の私ですら「確かに」と思うことが多々あり、選手達が竜崎先生のことを信頼しているのも充分に頷ける。



「にしても暑いの〜……。御剣、氷を持ってきておくれ」
「やだ私パシリですか」
「あー倒れそうじゃー。御剣のせいで倒れそうじゃー。あ、どうせなら御剣も筋トレに参加するか?」
「うえーい今すぐ氷持ってきまーすっ」



本気でやりそうな勢いの竜崎先生に負け、私は小走りで走り出す。向かう先は休憩所。休憩所の中にはドリンク作りを担当している夏菜達がいる為、私にとっては楽園だ。合宿が始まってから休憩や自由時間の時しか話せていなかったから、夏菜ともっと戯れたいという欲が出てきてしまっている。なんとか抑えないと。




 ***




「氷ってあるー?」



休憩所のドアを開け、中に居る夏菜達にそう聞く。夏菜は今まで真剣にドリンクを作っていた手を止め、ぱあっと花が咲いたような笑顔で「希代!」と私の名を呼んだ。うん、どうしてこうも可愛いのか。そんなんだから幸村君に狙われるんだ、鈍感。



「氷ならついさっき作ったよ」



人の良さそうな笑顔でそう言う河村君。その近くには観月君や日吉君達が居る為、球出し担当も暇な時はドリンク作りを手伝っていることが分かる。みんな働き者だな。河村君に「はい」と10個程の氷が入って容器を手渡され、「ありがとう」とお礼を言う。



「どうかしたの? 熱中症の人が出た?」
「いや、ただ竜崎先生にパシr……、られてはないけど、うん、ちょっとお願いされて」



私の言葉に、河村君は「パシられたんだ……」と苦笑する。私と河村君の会話を聞いていたのか、今までドリンク作りに専念していた桜乃ちゃんが手を止め、私に顔を向けて「お、お祖母ちゃんがごめんなさい!」と頭を下げた。



「桜乃ちゃん、頭下げなくても大丈夫だよ。だって希代だし」
「おいやめろ夏菜」



キラキラとした眩い笑顔で言う夏菜に、私は全力でタックルをかましたくなった。やらないけど。桜乃ちゃんは夏菜の言葉に「え、えっと……」と戸惑った表情を見せる。うん、ごめんね、夏菜がごめんね。氷が溶けて竜崎先生に怒られるのは避けたい為、「じゃあ行くね」と言って急いで休憩所を出る。




 ***




「お、来たか」



ベンチに座り、うちわを扇ぎながら筋トレしている選手達を見ていた竜崎先生は、私の存在に気づくと一気に笑顔になった。そのことに内心呆れながらも竜崎先生に近寄り、「どうぞ」と容器ごと氷を渡す。



「ひゃーっ、冷たいのーっ」



子供みたいに嬉しそうに騒ぐ竜崎先生をスルーし、筋トレしている選手達に視線を向ける。こんな暑い中、汗だくでやっている姿を見ると暑苦しくて仕方ない。そんなこと口が裂けても言えないけれど、この暑苦しさ、なんとかならないだろうか。思わず手でパタパタと扇ぐけれど生温い風しか来ず、若干やる気が無くなる。



「化粧溶ける……」



そう呟くと、筋トレを終えた跡部君が私達の方へ歩いてくるのが見えた。きっと竜崎先生に用事があるのだろう。顔のてかりを無くそうと、汚れても良いハンドタオルで、ポンポンと軽く顔の汗を取る。多少てかりは無くなったとは思うが、それでもまだ取れないてかりがあると思う。



「竜崎先生、」
「なんじゃ跡部」



私の予想通り、跡部君は竜崎先生に用があるみたいだ。まあ当たり前か。二人の会話を右から左へ聞き流しながら、選手達に視線を向ける。……あー……、本当こっちまで蒸し暑くなるくらい頑張ってる……。見ているだけというのは暇で、こう暑いとだるくて眠くなってきてしまう。ボーッとしていると、「御剣」と跡部君に名前を呼ばれた。



「この猛暑で皆バテていてな、何か気分転換に良い練習方法は無いか?」
「え、私に聞かれても……」
「だよな……、どうするか……」



顎に手をあてて深刻そうに考える跡部君。竜崎先生に視線を向けると、竜崎先生も困っているようで眉間に皺を寄せていた。確かにこんなに暑い中で一週間筋トレするのはキツそうだ。熱中症の人が出てきてもおかしくはない。……あ……、



「水泳、とかは?」



私の言葉に、跡部君も竜崎先生も私に視線を向ける。二人は何故そこで水泳が出てくるのか疑問に思ったようで、「水泳?」と首を傾げた。



「水泳は全身の筋肉使うから鍛えるにはオススメだって、テレビでいってた気がする」



私の提案に、竜崎先生は「成程、確かに水中では思うように動けんからの」と腕を組んで頷く。跡部君も私の提案に賛成のようで、「早速取り入れるか」とメモしている。あとは……、えっと……、なんとかゴーグルってやつを使うと身体能力が上がるとか。そのなんとかゴーグルってやつの名前が思い出せないけど。



「礼を言うぜ、御剣。これでアイツ等もやる気出すだろ」
「いえいえ、どういたしまして」



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