Act.12

それから数日後、特に変わったことも無く終業式を迎える日となった。明日からは夏休みということで、心なしかクラスメイト達の顔がイキイキしている。それは私も例外ではないのだが、私にはクラスメイト達と違って「男子テニス部の合宿に臨時マネージャーとして参加する」という使命があるわけで。嬉しいような悲しいような、複雑な感情だ。



「桑原君、」



トイレに行った後、教室に戻ろうと廊下を歩いていると、前方に大量のノートを持っている桑原君が見えた。男とはいえ、そのノートの量は流石にキツそうだ。小走りで駆け寄り、声を掛ける。桑原君は少し驚きながら「おう、御剣か」と言う。



「ノート、少し持つよ」
「え、でも、重いしよォ……」
「大丈夫大丈夫。少しなら重くない」



渋る桑原君を無視し、桑原君が持っているノートを二十冊くらい掻っ攫って歩く。それでも、まだ私が掻っ攫ったノートの倍は残っている。これは……、二クラス分のノートがあるんじゃないだろうか。私が歩き出したのを見て、慌てて歩き出す桑原君。



「お、おい、御剣、重くないか?」
「余裕。もう少し持とうか?」
「いや、充分軽くなった。流石に二クラス分はキツかったけどな。サンキュ」



苦笑しながら言う桑原君に、私は内心「やっぱりか」と思う。桑原君、人良さそうだから頼まれたのだろうか。だからって、元々持っているノートを二倍にするのは酷いと思うけど。



「断れば良かったのに」
「あー、まあ、そうなんだけど……、アイツ渡してさっさと行っちまったしな……」



断れない性格は夏菜そっくり。まるで合同練習試合と合同合宿を断れなかった夏菜のようだ。そう思うと、なんだか急に親近感がわいてきたな。桑原君とはもっと仲良くなれるかもしれない。っていうか、もっと仲良くなりたい。



「私で良ければ、言ってくれれば手伝うよ」
「悪ぃな、そうする」



私の言葉に、ニカッと笑みを浮かべる桑原君。その笑顔はなんとも人を安心させるような笑顔で、私はほっこりと気持ちが温まっていくような気がした。桑原君って親近感だけじゃなくて安心感もあるんだな。



「そういえば、御剣ってゲーマーなんだな」
「うん。え、誰から聞いたの?」
「御剣のクラスの藤沢」



ああ、藤沢か。アイツと仲良いのか、知らなかった。



「どんなゲーム好きなんだ?」
「んー…、アクション系とシューティング系はかなり。最近はホラゲーも好き」
「へえ、意外だな」



うん、よく言われる。心の中でそう言って頷く。ゲーマーになったのは、小学高学年の時に友人から貸してもらったゲームがキッカケ。それからというもの、ゲームにハマりにハマった。今となってはこんなゲーマーになりました、小学高学年の時の友人よ。



「俺もゲームには興味あるんだけど、最近のって結構難しそうなのばっかで手が付けられねぇんだよな」
「え、それは勿体無い! 私が教えてあげるよ!」



私の食いつき具合に、桑原君は「お、おう……」と若干引き気味。でもね、ゲームっていうのは素晴らしいのよ。桑原君には是非ともそれを分かってもらいたい!



「夏菜とね、合宿の自由時間に一緒にホラーゲームしようって約束してるの。桑原君もどう?」
「いきなりホラーかよ……」
「無問題!」



ノートを抱えながらグッと拳を作って目を輝かせる私に、桑原君は「どこが」と苦笑する。確かに初心者にホラゲーはキツいと思うけれど、私もホラーは苦手だから生ぬるいホラゲーしか持っていない。ホラゲーをやり尽くしている人にはイマイチ物足りないと思う。そうこうしているうちに、職員室に辿り着いた。



「あとは俺から渡す。本当ありがとな」
「うん、どういたしまして」



大量のノートを持っている桑原君は両手が開いていない為、私が持っているノートを桑原君が持っているノートの上に置き、職員室の引き戸を開けてあげる。桑原君は再び「ありがとう」と私にお礼を言い、「失礼します」と言って職員室の中に入って行った。残された私はこのまま待っていようかと思ったけれど、そこまでする必要ないか、と思い教室へと戻った。



(御剣、待たせてわr……あれ?居ねえ……)



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