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小さい頃から可愛い可愛いってもてはやされて、うんざりだった。どうせ私の中身なんて見てくれてないのは分かっているし、私と付き合う男子たちは、私のことを飾り程度にしか思ってなかったことも気づいてた。みんな私の性格と顔のギャップに引いて、一日で別れる事も沢山あったし、そんなことを繰り返していくうちに私の心はささくれだって、周りからは性格が悪いだなんて言われるようになってしまった。それでも、私の価値なんてそのくらいのものだから仕方ない。そう思って生きてきた。



「ちょっと! 歩くの速い!」

「ごめん、今日は弟と妹が待っているから、どうしても早足になってしまっていた」

「だからってそんなに速く歩いたら追いつけない!」

「…ごめんな」


だけど、炭治郎は違った。私を、顔だけじゃなくて中身も見て選んでくれた。
私がどんな我儘を言っても、別れようとはしなかった。私の噂を知って、それでも付き合ってくれた。



「なまえ、あのさ」

「何?」

「…友達と帰ってもいいんだぞ?最近早く帰らなきゃ行けないことが多いから放課後付き合ってあげられないし、暇だろう」


炭治郎の家には小さい妹と弟がいて、親が仕事で忙しい時には炭治郎が面倒を見ている。分かってはいるのにわがままを言ってしまう私に、いつもは困った顔でごめんと謝るだけなのに。びっくりして炭治郎を見ると、いつも以上に困った顔をしてこっちを見ていて、思わず目を逸らしてしまう。
そんな事言わせたかったわけじゃないのに、私の自分勝手な一言のせいで炭治郎に気を遣わせてしまった。


「…別に、大丈夫」

「でも、なまえ」

「何、駄目なの?」

「そういう訳じゃないが、」

「なら私がいいって言ってるんだからいいの!」


文句ばっかりで可愛くないってわかってるけど、炭治郎が私のことわかっていてくれるならそれでいいや。そう思ってしまうから、どうしても素直になれない。こんなの甘えだってわかってるけど、それでも離れずにいてくれて、本当に炭治郎は優しいなと思う。

「俺の都合に合わせなくてもいいんだぞ?」

「合わせてなんかない!ただ、」

少しでも一緒にいたいだけ。ただそれだけなのに、それがどうしても言えなくて結局いつも「なんでもない」とはぐらかしてしまうし、炭治郎も「そうか、」と言うだけでそれ以上は深く聞いてこない。炭治郎は人の気持ちを汲み取るのがうまいから、もしかしたら伝わっているのかもしれないけれど、こんなことを続けていたらいつか愛想をつかされてしまうかもしれないと頭でわかってはいても、どうしても寂しくなって考えていることと真逆のことをしてしまう。

「…ごめんね」

ぽそりと、ほとんど吐息に隠れてしまいそうな声で呟くと、ふと炭治郎が足を止めた。聞こえてしまったかと思い、どうしようかと思っていると、ゆるく繋いでいた手をきゅっと強く握り返された。

「明日は、なまえが行きたがってたクレープ屋に寄って帰ろう」

「…炭治郎の奢りだからね」

分かったよ、と笑いながら答える炭治郎の姿が私には眩しくて、ほんの少しだけ泣きそうになった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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