善逸がバイトで私が休みの日の夜は、少し退屈だ。2人で見れば面白く感じるテレビ番組も、なんだか1人だとつまらなく感じてしまう。でも、真っ黒な液晶を眺めながらご飯を食べるのも、さみしさが強調されてしまうような気がして、結局テレビをつけてみる。

でも今日は、珍しくテレビに釘付けになっていた。これは、はやく善逸に伝えたい。夢中になってテレビを見ているうちに、気づくと善逸がそろそろ帰ってくる時間になっていた。まだかまだかと帰ってくるのをそわそわしながら待っていると、かちゃりと玄関の鍵が開く音が聞こえた。


「ただいまぁ…」

「あっ善逸、今度温泉行きたい!」

「おかえりよりもまず先にそれ??泣いていい?」


そう、私が夢中になっていたのは旅行番組、しかも温泉を特集した番組だったのだ。ここのところ善逸はシフトが詰め詰めで、いつも疲れたような顔をしているから、温泉に行ったら少しは癒されるかなあと思った。しかも、考えてみればしばらく温泉なんか行ってないことに気づいた。え、温泉、よくない?そう思ったらなんだかすぐに行きたくなってしまって、ついおかえりを言うのを忘れてしまった。


「ごめんね、おかえり!さっきね、テレビ見てたら温泉が沢山紹介されてて、つい」

海鮮料理がとっても美味しそうな所や、自然のものとは思えない綺麗な色をした温泉、露天風呂の周りが絶景な温泉など、先程得たばかりの情報を、嬉嬉として一息で伝えてしまう。ただでさえ疲れているのに、部屋着に着替えている最中にずっと話をし続けるのはちょっと申し訳ないなとも思ったが、それでもうんうんと相槌を打ちながら楽しそうに話を聞いてくれるから、善逸にはついなんでも聞いて欲しいことをすぐ喋ってしまうのだ。


「でも、確かに行きたいかもなあ。次の週末、ドライブがてら遠出して温泉行く?」

「えっ!いいの!?」

「名前バイトないって言ってたよね?俺も休みだから行こう!」

「やったー!!」

まさかこんなにすぐ行けると思わなくて、思わず抱きつくと善逸が「ヒャッ不意打ち!!」と声を上げた。

「だって嬉しかったんだもん」

「あーーほんと今日も俺の彼女可愛い本当に神様ありがとうございます…」

「善逸きもちわるい」

「辛辣!!」


そんな会話を交わしていると、テレビから温泉宿のCMが流れているのが聞こえてきて、2人で同時にピタリと動きを止める。あまりにも動きがシンクロしていたし、それに驚いて目を見合わせたタイミングまで一緒で、なんだかおかしくなってしまった。くすくすと笑う私につられて、善逸も笑いだしてしまう。一通り笑い終えて長いため息を着いた後、あんまり遠いところには行けないかもしれないけど、と善逸が話し出す。


「俺、良さそうな温泉探しとくね」

「善逸に任せると混浴あるとこ重視で選びそうだからやだ」

「酷い」

「一緒に選べばいいじゃん」

「そうだけどさあ…」

混浴って男ならみんな憧れると思うだのなんだのぶつぶつ言っているのを横目に見ながら、スマホでインターネットを開き、検索バーに温泉と入力する。


こうして、私たちの温泉旅行が決まったのである。




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