私と付き合ってから、善逸は私に冷たい。なんなら、付き合う前の方が優しかったんじゃないかと考えてしまうくらいには。私と話しててもあんまり楽しくなさそうで、ほかの女の子と話しているときくらいしか善逸の笑顔は見られない。話しかけに行っても、「そういえば禰豆子ちゃんに用事があるんだった」とか、「アオイさんからの頼まれ事があったんだった」とか、いつも女の子絡みで中断されてしまう。私、なにかしたのかな。嫌われるようなこと、しちゃったのかも。そうやって考えているうちに、一緒にいる時にまた女の子の所に行っちゃったらと不安になって、いつの間にか善逸を避けるようになってしまっていた。





名前ちゃんは、とても優しい女の子だ。炭治郎に負けないくらい優しい音をさせている女の子だ。だからこそ、なんで俺と付き合ってくれたのか分からなくて、つい妬かせるようなことばかり言ってしまう。その度にちくりと刺されるような音がして、それを聞くことによってしか名前ちゃんからの愛を感じられない俺は最低だとも思う。だけど、そうでもしないと不安で不安で仕方なくて、いつかまた今までの女の子たちのように俺から離れていってしまうんじゃないかと思ってしまって、どうすることもできないのだ。


「善逸、いる…?」

「いるよ、どうしたの?」

「あのね、ちょっとお話したくて」

「そっか…でも、もうすぐ禰豆子ちゃんと花冠作りに行く約束をしてた時間なんだ」

「…そっか、わかった」


楽しんできてね。そう悲しそうに笑って立ち去る姿に、少し心が痛みながらも安心する。任務続きで久しぶりに会えたというのに、してもいない約束を理由に名前ちゃんの誘いを断って、自分の心を満たしているなんて、本当に俺は最低な奴だ。彼女の心がたてる音が日に日に大きく軋むようになってきているのを知りながら、この行為を辞めることが出来なくて、大きいため息が出た。





善逸に、嘘をつかれた。

善逸に会うのが怖い日々が続くうちに、自分で避け始めたくせに寂しくなって、どうにかこの現状を打破したいと思って勇気をだして善逸のいる部屋に行った。だけど善逸は、禰豆子ちゃんと先に約束があるからと、そう言った。それならとすぐに部屋を出たが、やっぱり今話さないとだめになってしまうと思い、善逸の部屋にもう一度行く勇気のなかった私は炭治郎の部屋で善逸が禰豆子ちゃんを迎えに来るのを待たせてもらっていた。
だけど善逸は1時間経っても禰豆子ちゃんを迎えに来ることは無かった。

禰豆子ちゃんに、「善逸と約束してたんだよね?」と聞くと、ぶんぶんと首を振るので、やはり約束なんてしていなかったことがわかった。嘘をついてまで私とは話したくなかったってことなのだろうか。もしかしたら、今までのも、全部、嘘?

気がつくとぽろぽろと涙が溢れていて、戸惑う炭治郎と禰豆子ちゃんの姿が見える。「どうしたんだ!」と炭治郎は聞いてくれるけど、横に首を振ることしか出来なかった。





布団に入りぼーっと天井のシミを数えていると、どこからか女の子の泣き声が聞こえてきた。この声は、名前ちゃんの声…


「なんで泣いてるの!?なんかあったの!?」


泣き声が聞こえる方向に急いで向かい、襖を思いっきり開けると、驚いた顔をした禰豆子ちゃんの顔と、手のひらで顔を覆い肩を震わせている名前ちゃんの姿が目に入り、名前ちゃんの涙の理由が俺であることを悟った。俺のエゴでついた嘘が、ばれてしまった。


「…出てって」

「え、」

「善逸は私のこと、好きじゃないんだから…、どうでもいいでしょ…」


しゃくりあげながらそんなことを言う名前ちゃんを見て、俺はようやく事の重大さに気がついた。本当に俺は馬鹿だ。大馬鹿だ。にこにこ笑った顔が可愛くて、とっても優しい音がして、こんな俺の事を好きだといってくれた女の子なのに、顔を涙でぐしゃぐしゃにさせて、ギシギシと軋むような音を立てさせて、私のことなんてどうでもいいなんて言わせてしまった。


「ちょっと、話をしよう」


心配する炭治郎に、「迷惑をかけてごめん」と一言声をかけて、名前ちゃんの手を優しく握る。振り払われるかとも思ったが、拒絶されずそのまま俺の部屋までついてきてくれた。



「名前ちゃん、本当にごめん」

「…善逸、もう私の事嫌いになった?」

「ちがう!それだけは絶対にないって誓う!こんなことしておいて信じられないかもしれないけど、嫌いになんてなるはずがないよぉ…」

「ほんと…?」

「ほんとだよ、傷つけてごめんねぇ…」


静かに涙を零しながら、消えてしまいそうな声でぽとりぽとりと声を発する名前ちゃんを、ぎゅっと抱きしめた。控えめにきゅっと隊服を握り返され、心が痛む。

「名前ちゃんが俺のこと好きなんて信じられなくて、試すようなことばっかりしちゃってさぁ…」

「名前ちゃんが妬いてくれてるの見て、それで安心してたの。ほんと俺、最低すぎ」

「…だいすき」

「…えっ」

「すき、だいすき、あいしてる。本当に好きなんだよ…どうやったら善逸は安心できるの?私、善逸が安心できるまで伝えるし、なんでもするよ。だから、ほかの女の子と同じように、私にも優しくしてよ…」


俺の隊服を握っていた手に力が入り、顔をうずめられた肩がしっとりと濡れていくのがわかる。


「ほかの女の子と同じようになんてできないよ、名前ちゃんの方が大切なんだからさぁ」

「…ほんと?」

「ほんと今までごめんね、誰よりも大切にするから」

「…私、善逸と、花冠つくりたい」

「今から行こう!名前ちゃんのためならとっても綺麗なの作れると思うよ」


そう言うと、名前ちゃんはやっと笑顔を見せてくれた。


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