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没った古花ー


本の紙をめくる音と二人の息づかい。
部屋にはそれだけがあった。

ちらりと古橋へ視線をやると、相変わらずの死んだ魚のような目が本に注がれていた。
オレはすぐ手元の本に視線を戻した。

年に一度に親族が集まる日に起きた洋館の殺人事件。
次々に殺されていく親族に、主人公は犯人を捕まえることを決意した。
犯人は親族の中にいるのか、それとも第三者なのか。
苦悩と慟哭のミステリー。

なんていうよくある下らない内容の物語。
犯人だって序盤で簡単に予想できた。
必要ないが、一応の確認のためにページをめくる。

あぁ、やっぱりコイツじゃねぇか。

オレはため息をついて本をぱたんっと閉じる。
その音に古橋は反応してオレを見る。
「読み終わったのか花宮」
「まぁな。最高に面白かったぜ?犯人のバカ具合が」

オレは古橋の傍に寄って肩の辺りに顔を埋める。

「惚れた女に騙されて人を殺すんだ。女は家の資産を狙っていてよ、男に邪魔な奴を殺させた。全てが終わったら一緒になろうって嘘を言ってな」

生暖かい体温が心地いい。

「男は騙されていたことを知って最後死ぬんだけどよ、女のことは恨んでないんだ。愛している人の役に立てたなら幸せだってな」

古橋は黙ってオレの話を聞いている。
アイツの手がオレの髪に触れているのが分かる。
まるでガキをあやしているみたいに何度も頭を撫でている。

「自己中な奴はイヤだよなぁ?人を殺しておいて、人の幸せを奪っておいて自分は幸せなんてほざいてやがる」

そう言ってオレは口を閉じた。
この想いが言葉にしにくかったから。
「花宮。それは自己嫌悪か?」
「……さぁな」
本当にわからなくて、そう答えた
「…別に木吉にケガさせたのは悪いとは思ってねぇよ。むしろ良かったと思ってるぜ?あんなムカつく奴を壊してやったんだ。アイツの苦痛の顔を見れたのは堪らなく嬉しかったさ」

オレは古橋から少し離れて、コイツの顔を正面から見据える。
深い井戸を覗いたような暗い瞳。
そんな目に映った自分は何の表情も浮かべていなかった。
あえて言うなら陰りを帯びている思う。
「それに…今が幸せとは思ってねぇ。時間を浪費してる気がする」
「オレが嫌いか?」
「んな訳ねぇだろ」
オレは即座に一蹴した。
嫌いなら一緒には居たくもない。

「ただ…あの犯人が気にくわなかったんだよ。愛に溺れて罪を犯して、それで幸せ?納得いかないね」
忌々しく本を睨む。
古橋はそんなオレを見て、また頭を撫でた。
ガキ扱いされているようにしか思えない。
「花宮も、そんな風に思えるようになるまで溺れてみたらどうだ?そうしたら納得は出来るだろう」
「…愛に溺れるなんてバカみたいだ。下らねぇ」
そう吐き捨てて古橋の手を払う。
「ならオレはバカらしい。オレは花宮に溺れているからな」
さらりと言ってのける古橋に目を見張る。
この能面みたいな顔の男が愛の言葉を紡いでいるだなんて奇妙なものだ。
「ふはっ、そうかよ。それは嬉しいねぇ」
わざとらしく棒読みする。
古橋は気分を害しているのか読み取りづらい顔をして、オレの首筋にキスをした。

古橋の気持ちは本当に嬉しい、オレだって好きだ。
だが、拒絶の言葉が真っ先に口から発せられる。
自分からは好きだの愛してるなんて言ってやらない。
さっきみたいな質問だって、yesかnoしか言わない。

この距離が好きなんだ。
恋人同士かも分からない微妙な距離が。
オレの気持ちを伝えたら、きっとその瞬間にこの気持ちは消える。
手のひらに落ちた雪みたいにすぐに。

この距離を壊したくない。
だから絶対にこの想いは言葉にはしない。
オレに甘い恋人同士みたいな幸せな時間はいらないんだ。
ただし、その手前の状態なら…構わない。
いつかは終わると思う距離だが、いまはまだある。
それで、いいんだ。



書いてて何か頭がぐちゃぐちゃになったので没。

2013/01/16 17:16
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