槿花一日。






09


「キトちゃーん!!」


さて、書類騒ぎから数日経ちまして、とある昼下がり。


「なんや、サッチ。」


廊下を歩いて居たらサッチがブンブン手を振りながらやって来た。

「ちょっとサッチさんといい汗かかない??」


親指をグッと立てて、爽やかに笑って見せるサッチを見て、その後ろから歩いて来ていたクリエルに声をかけた。


「クリエルー。サッチが真昼間から卑猥やねんけどー。」

「ちょっ!?」


「何を言うの!?」と慌てるサッチに、


「いつものことだ。」


と、クリエルはずっぱり切って捨てた。


「そぉか。」

「ちょぉぉぉいクリエール!!」


クリエルの言葉に頷いてみせると、何やら叫び声が聞こえた。


「それはそうとキト。」


わかってて明らかにスルーしているのかクリエルは淡々と話を続ける。


「なんや。」

「少し身体動かさないか??」

「おぉ、えぇで。」


甲板を指すクリエルに肯定の返事を返す。


「ちょっと待て。何故俺だけ卑猥に取られて、クリエルだとあっさり解決なんだ。」

「人徳の差じゃないか??」


涙目なサッチにクリエルが留めを刺した。ここ数日で分かったが、どうやらサッチは弄られやすい。というか弄りやすい。その次に火拳の旦那が良く弄られているようだ。まぁ、つまりは仲が良い。

留めを刺されて崩れ落ちたサッチをさておき、クリエルについて甲板に向かえば、


「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁ!!」
「ちぇすとぉぉぉぉぉ!!」
「うぉりゃぁぁぁぁぁあ!!」


ギャーギャーと聞こえる叫び声、いや雄叫びの方が正しいかもしれない。


「何事や。」

「組み手だな。」


あっちこちで吹っ飛んだり、跳んだりなんか振り回したり、そりゃあもうチャンバラごっこなんかとは次元が違う。


「こうやって暇が続くと皆体力持て余すからな、訓練がてら。」

「あぁ、なるほどなぁ。」


馬鹿みたくでかい船だからこそ、こうやって何人もが同時に組み手出来る訳であって、なんか入り乱れて最早これ内乱じゃないのかと思う勢いだが組み手らしい。


「で、どうだ??よかったら俺と手合わせしてみないか。」


クリエルが振り返ってそう言う。特に断る理由も無く、首を縦に振ろうとしたら、


「えー!!ずるいよクリエル!!僕もキトと組み手したい!!」


何処からかひょっこりハルタが顔を出す。


「なら、俺とハルタで組み手して勝った方がキトと先にやるってのはどうだ。」

「あ、それのった!!」


クリエルの提案にハルタが乗って二人共行ってしまった。


「置いてきぼりやし。」


ま、いいか。と持って来ていた黒い日傘を広げ、辺りを見渡した。隊長格同士の組み手になると少し離れた所で見学してる奴らもちらほらいる。


「皆熱心やねぇ。」

「おめぇはいいのか??」


他人事のように眺めていると横から声がかかり、見れば休憩らしいラクヨウが隣に居た。


「んー、今ハルタとクリエルがうちと先に組み手する権利を争ってバトっとるからちょっと待とか思て。」

「ガハハ!!人気者じゃねぇか。」

「新入りやからやろ。皆物珍しいだけやて。」


水を半ば浴びるようにして飲みながらラクヨウは笑う。


「ハハっ、それもあるだろうがおめぇ、前に軍艦ひっくり返しただろ??あれでじゃねぇか??」


「強そうな奴見たらそわそわすんじゃねぇか。」とまた豪快に笑うラクヨウに、頬を掻きながら苦笑いした。やっぱり目立ってしまったか。が、しかし能力を見せておく目的があったから致し方ない。


「おう、キトも来てたか。今から呼びに行こうかと思ってたんだ。」

「火拳の旦那。」


ラクヨウの反対側、不意にかけられた声に振り返るとそこには旦那がいて、


「なんや用か??」

「いや、一回おめぇと組み手しときてぇなと。」

「なんや旦那もかいな。キトさんモテモテで困っちゃう。」


カラカラと笑えば、旦那は呆れ顔で。


「いいから行くぞ。」

「へーい。」


スタスタ乱闘の隙間を縫って歩き出すからそれについて行く。


「この辺でいいか。」

「ギャラリー多ないか。」


ピタリと旦那が止まったところはなんだかギャラリーがわんさか居て、良く良く見ればなんだか賭けを始める奴らも見えた。


「いいじゃねぇか。」

「大体なんで相手うちなんや。」

「あぁ、そりゃお互い戦い方知っといた方がいいだろうが。お前うちの隊なんだしよぉ。」

「なるほどなぁ。」


パチンと傘を閉じてギャラリーを見回し、うちの元クルーに預かるよう頼んだ。


「あぁ、せや旦那。」


それからそういや自分と組み手する権利を巡って組み手中の2人をふと思い出した。


「なんだ??」

「多分後でハルタとクリエルに怒られる思うわ。」


今エースとの組み手を断れば逃げ出したと思われるに違いなく、それは腹が立つってもんだ。


「は??」

「ま、えぇからやろか。」


エースには悪いが後から怒られて貰おう。


「なんだってんだ。」

「えぇからえぇから。」


訳がわからないと首を捻る火拳の旦那に笑いかける。


「ま、いいか。」

「せや、気にしなさんな。」


あんまり考えるのが面倒になったのか、何となく納得したような旦那。一方自分は、顔に浮かべる笑顔を、ヘラリとしたものからニヤリと口角を上げるだけの物に変える。それから、刀を抜いた。ザワ、と周りが少しどよめいた。


「お、刀抜くのか??」

「相手旦那やさかいえぇやろ思て。ギャラリーの皆さんは頼むから離れといてんか。」


刀を握って居ない左手で下がるように促すと、ギャラリーが少し下がった。


「ほな、やろか。行くでぇ、エンガスタちゃん。」


軽く刀にキスをして、


「いつでも来ぃや、旦那。」


相手を刀で指せば、


「いいんだなこっちからで。火拳!!」


飛んで来る炎の塊。軽く膝を折り、脚に力を入れると炎に向け甲板を蹴った。刀を逆手に持ち直すと上体を捻り、刀を振り抜くと同時にくるりと空中で回った。


「回る牙<サーキュラー・エンガスタ>!!」


その勢いで、炎の塊は火の粉となり辺りに散った。着地して口角を上げて旦那に視線をやる。と、何故か真顔だった。


「なんや、キトさんの凄さにビビったか??」


満足げにドヤ顔する。が、その時なんか臭った。


「ん、何の臭いや??なんか焦げ臭い……、」


キョロキョロ辺りを見回して、それから何か熱を感じ、左下に視線をやる。と、


「ギャァァァァ!!燃えとる!!うちのストール燃えとるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


慌ててストールを外し鎮火にあたる。なんか、呆れた視線が向けられた気がした。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!焼き兎いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




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