槿花一日。






変な眉毛の奴が出ていった扉を暫し見つめそれから、ベッドに横になった。ふわりと自分のではない匂いが漂うのに少し違和感を覚える。
それから、何で添い寝されてたのかという本題を思い出して頭が痛くなった。いくら祖父の知り合いの船とは言え、他人に添い寝を許すほど気が緩んでいたとは。海賊として情けない限りだ。
更に一点気になるのは、


「寝ぼけて何か言ったりしたりしたんじゃないだろうな……。」


寝起きの悪さだけは自身がある。実際過去に寝ぼけて船長の膝で寝落ちしたりしたこともあるくらいだ。あの男が寝てるところに寝ぼけて潜り込んだ可能性が捨てきれない。
そもそも、だ。この部屋には一つしかベッドがないのでそれを私が占領していたのが悪いという話もある。今晩からはシーツの予備がなにかを借りて床で寝るか、などと考えていると、部屋がノックされて扉が開いた。


「マコちゃん、朝ご飯食べれるかい?」


丁度今私の思考を占拠していた男がお盆を持って現れた。それと同時に漂ってきたいい匂いに一度思考が途切れた。
噂には聞いていたが、ここのご飯は美味しいのだ。タダ飯を頂いてしまっていることに罪悪感は感じるが。


「貰う。」


今しがた横になったばかりのベッドから這い出そうとすると、お盆がテーブルに置かれ、手を差し出された。


「なんだ。」


差し出された手に訝しげな視線をやると、


「いや、マコちゃんまだ足痛いだろ?支えに使ってくれ。」


要はエスコートをしようというのだ。その言葉を聞いて眉間にしわを寄せると


「不要だ。」


と無理やり立ち上がってテーブルに向かう。今朝はトーストとハムエッグ、サラダとスープのようだ。
差し出した手を無視されたそいつは、


「食べ終わったらそこに置いておいてくれ。後で取りに来るからよ。」


と言い残して部屋を去っていった。そういえばまだ名前も聞いていなかった気もするがそう長いする気もないのでいいか。と、とりあえず目の前の食事に専念することにした。



Ж




弱くてはこの海では生きていけない。海賊として生きてはいけない。ましてやこの先グランドラインに挑むにはもっともっと強くならなければいけない。だからこんなところで足踏みしてる場合じゃない。早くみんなと合流しなくては。
昨日、ぐるぐる眉毛のやつを下着を買いに行くという名目で追い払ったあと、その街の情報屋が集まりそうな治安の悪い地域に足を運んだ。当然みんなの行方を追うためだ。


「なんだお嬢ちゃん金は持ってるのか。」


下卑た笑いでそういう情報屋に、買い出し用に多めにもらっていたお金を見せて、


「金ならある。」


と返す。品定めするような視線にイライラしながら、


「知っているのか知らないのかどっちだはっきりしろ。」


と急かすと、


「知らねぇなぁ。ただ、『知らねぇ』って情報は売ったんだ金は貰うぜ。」


ハズレの情報屋を引いたらしく、ぞろぞろと後ろから人が集まってくる。このまま金だけ持っていくつもりだろう。


「知らないなら金は払わない。」


財布をポケットにしまうとそう宣言する。すると情報屋は


「おいおい、対価は払ってくれよ。それか体で払うかぁ?貧相だがそういうのが好きなやつもいるだろうよ。」


ギャハハハと下衆な笑い声がする。あぁ、これだから、と日頃から感じていたフラストレーションを更に感じる。


「ほら、払うまで帰さねぇぞ?」
「なら、無理矢理にでも帰してもらうまで。」


結局多少食らったが大した相手でもなくことを終えたが、イライラが募る相手だった。あいつもそうだ。どいつもこいつも女子供と見れば庇護の対象もしくは搾取の対象と見やがる。嫌いだ。嫌いだ。男に生まれたかった。そうすればきっともっとキャプテンの役にも立てたのに。
そんな自分に嫌悪感を感じる。強くなりたい。強くありたい。庇護や搾取の対象だなんてゴメンだ。女扱いなんてゴメンだ。私は強くあらねばならないのだ。
腹いせにそこいらに落ちていた缶を蹴り飛ばすと、舌打ちをする。買い物をして帰ると言った以上買い物をして帰らねばならない。面倒だが買い物をしに店が並ぶ町並みへ戻っていった。


Ж



ゴクリ。昨日のことを思い出してはそれを飲み込むように朝ご飯を平らげる。眉毛のやつを見ていると痛感してしまうのだ。彼にとって自分は庇護の対象だと。不甲斐ない自分に腹が立ってしょうがないのだ。
医者からもらった薬を飲み干して、ハァと一息大きなため息が思わず出た。早く怪我を治してせめて何かさせてもらわないと一方的に恩を受けるのは性に合わない。そのためにもさっさと寝よう。と、食器の片付けはぐるぐる眉毛が言ってた通り任せることにしてさっさと布団に潜り込んだ。嫌なことは寝て忘れるに限る。とはいえ、この問題は自分が女である以上ずっと付き纏う問題なのだが。



Ж



マコちゃんに食事を運んで自分も飯を掻き込んで暫く、もう食べ終わっただろうかと、そっと自室の様子をうかがう。
静かな部屋に小さくノックをするも返事がない。音を立てないように扉を開けて隙間から除けばベッドの上に小さな膨らみが見えて、規則正しく呼吸しているように動いていた。そのまま抜き足差し足でテーブルの方まで向かうと綺麗に食べられた食器が置いてあった。
全部食べてくれたことに安心をして、ちらりとだけベッドの方を見やるとマコちゃんが寝苦しそうに寝ていた。まだ傷が痛むのだろう。俺にしてやれることは病院に連れて行くことと、ご飯を振る舞うことだけ。それでも傷ついたレディは全力を持ってして看病して差し上げなければ。ひとまずは少し寝汗をかいている彼女に冷やしたタオルを持って来ようと、食器を持って静かに部屋を後にした。





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